2008年11月06日

オバマ氏、大統領選勝利宣言、米経済再生に全力、「変革の時、到来」。

オバマ氏、大統領選勝利宣言、米経済再生に全力、「変革の時、到来」。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

政権移行へ準備加速
 【ワシントン=丸谷浩史】四日に全米各地で投開票された米大統領選は、民主党のバラク・オバマ上院議員(47)が共和党のジョン・マケイン上院議員(72)を大差で破り、第四十四代大統領になることが決まった。オバマ次期大統領は五日未明(日本時間同日午後)、イリノイ州シカゴで「米国に変革の時が到来した」と勝利を宣言した。同時に「米国は二つの戦争、一世紀に一度の最悪の金融危機のさなかにある」と述べ、経済再生などに全力をあげる考えを表明した。金融危機や対テロ戦争に対応するため、政権移行準備を加速する。(米国の政権移行は3面「きょうのことば」参照)

 米国建国の一七七六年以来、黒人大統領は初めて。民主党はクリントン前大統領以来、八年ぶりに政権を奪還。オバマ氏は来年一月二十日に大統領に正式に就任する。任期は二〇一三年一月までの四年間。副大統領にはジョゼフ・バイデン上院議員(65)が就任する。
 オバマ氏は民主党地盤の東部各州や西部カリフォルニア州のほか、オハイオ州などの激戦州も相次いで制した。米メディアの集計ではオバマ氏が獲得した選挙人は三百四十九人にのぼり、当選に必要な二百七十人を大きく上回る圧勝だった。
 勝利宣言の演説でオバマ氏は、大統領選を争った共和党のマケイン候補と「協力することを期待している」と語った。自らの政権で共和党系の人材登用も含め、超党派で臨む可能性を示唆した。
 同時に「我々は単なる個人の集合ではなく合衆国なのだ」と語り、イラク戦争の遂行で世論が分裂した米国の修復に力を尽くすと約束。敗北宣言に臨んだマケイン氏も「オバマ氏を全力で支援する」と結束を訴えた。
 オバマ氏は人事を含む政権移行準備に着手。ABCテレビは五日、オバマ氏がクリントン政権で政策顧問を務めた民主党のエマニュエル下院議員に首席補佐官就任を打診したと伝えた。同議員は〇六年中間選挙での民主党勝利の立役者の一人。
 十四、十五両日にワシントンで開く国際的な緊急金融首脳会合もにらみ、財務長官など経済担当チームの人選も急ぐ。すでにブッシュ政権のポールソン財務長官らと緊密に連携をとっている。ブッシュ大統領は五日午前、ホワイトハウスで声明を発表し、オバマ氏に「感銘を与える勝利だ」と祝意を表するとともに、来年一月の政権引き継ぎまでの「完全な協力」を約束した。
 米国発の金融危機をきっかけとする世界的な景気後退への具体的な処方せん作りと、イラク駐留米軍の早期撤収や北朝鮮、イラン核問題解決に向けた交渉などの公約実現に取り組む。
 八年ぶりでホワイトハウスを奪還した民主党は上下両院も過半数を制し、オバマ次期政権は強力な体制で始動する。

米国の政権移行(きょうのことば)
▽…次期米大統領に決まった候補者は直ちに「組閣本部」を発足させる。ホワイトハウスのスタッフや閣僚だけでなく、次官、次官補などポリティカルアポインティー(政治任用)職の人選を進め、来年1月20日の就任式までに主な顔ぶれを固める。
▽…ブッシュ大統領は10月上旬、政権移行チームを設置、候補者に金融危機対策や安全保障上の機密情報などを提供。すでにシークレットサービスの警護も与えている。「核のボタン」は軍最高司令官となる次期大統領就任と同時に引き継ぐ。


---------------


オバマ氏、大統領選勝利宣言――麻生首相、「日米関係を維持」。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 麻生太郎首相は五日、米大統領選で民主党のオバマ候補が当選したことを受けて「日本と米国が五十年以上の長きにわたって双方で培ってきた関係を、新しい大統領との間で維持していくことが一番大事なことではないか」と述べた。
 オバマ氏との会談に関しては「急に会わなきゃいけないってわけじゃない。来年一月二十日まではブッシュ大統領。正式に大統領が代わった後の話だと思っている」と語った。首相官邸で記者団に答えた。
 首相は同日、談話を発表し「私はオバマ次期大統領と力を合わせ、日米同盟を一層強化し、国際経済、テロ、地球環境等の国際社会全体の諸問題の解決に向け力を尽くしていきたい」と強調した。


---------------


ポーランド隣接の飛び地、ロシア、ミサイル配備――大統領表明、米MDに対抗。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 【モスクワ=坂井光】ロシアのメドベージェフ大統領は五日の年次教書演説で、米国によるミサイル防衛(MD)施設の東欧配備に対抗するため、ポーランドに隣接する飛び地カリーニングラード州に新型ミサイルを配備することを明らかにした。次期大統領が決まったばかりの米国を揺さぶる狙いとみられる。(関連記事8、11面に)
 大統領は「米MDに対抗するにはミサイルシステム『イスカンデル』を配備することが不可欠だ」と言明した。イスカンデルは射程が最長で四百キロメートル超に達する通常弾頭搭載の地対地ミサイル。カリーニングラードが隣接するポーランドは米国のMD施設受け入れを表明している。
 大統領は米国のMD施設をかく乱するための妨害電波装置をカリーニングラードに配備することも言明。またロシア西部にある三カ所の戦略ミサイル基地の解体を当面見送ることを発表した。


---------------


オバマの米国と世界(上)陰りゆく威信――激動のとき、指導力試す。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 米大統領選で「変革」を訴えたオバマ氏の勝利の向こうに透けて見えるのは、超大国・米国の地位の低下だ。多極化する激動の時代への対応を、米国民は政界での実績がほとんどないオバマ氏の可能性に託した。衰えたとはいえ米国に代わる主役はない。ポスト冷戦期の世界がオバマ氏の指導力を注視している。

希望求める人々
 米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン前議長が「百年に一度の津波」と評した最中の大統領選。グローバルな金融危機とドル基軸通貨体制の揺らぎ。中国など新興国の台頭、ロシア復活による米一極支配の後退。歴史的転換点を象徴するかのように、米国建国以来初めての黒人大統領が誕生した。
 オバマ氏に勝利をもたらした最大の要因は、現在のブッシュ政権への米国民のいらだちだ。強引なイラク戦争によって世界から孤立。金融危機により超大国の威信は地に落ちた。国内でも暮らしへの不安が高まった。
 米国民の人種差別意識がなくなったわけではない。だが、理想を語るスタイルが不安の時代に希望を求める人々の心情に合致。従来は棄権していた少数派や若者が大挙して投票に足を運んだ。
 議会選でも民主党が過半数を制し、政権と議会のねじれは解消する。政策実現の環境が整ったオバマ政権への内外の期待はとてつもなく大きい。それだけに迅速な対応は欠かせない。
 次期政権で枢要な役職に就くとみられるダシュル元上院院内総務は「政権移行期はいつでも大事だが、今回はとりわけそうだ」と指摘する。要となる財務長官は一両日中に指名するとのうわさでワシントンは持ちきりだが、来年一月の政権発足までの政治空白を不安視する向きがそれだけ多いということでもある。
 大統領選の分岐点は九月の米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻だった。マケイン氏は「経済基盤は強力」と場違いな発言をして自滅。裏返せば、オバマ氏が目を見張る対策を提示できていたわけではない。
 ブッシュ政権の失政をあげつらっていれば喝采を浴びた選挙戦の延長のつもりでいたら、急失速は免れまい。
 自動車など経営危機にある米産業は政府の助けを求め、民主党政権を心待ちにしてきた。オバマ氏はかねて自由貿易協定(FTA)には批判的で、保護主義の色彩が強まるとみられている。米国と世界の利害が今度は経済で対立する場面もありそうだ。一方で金融安定には米欧日の連携が不可欠で、かじ取りは難しい。

八方美人の懸念
 外交面でも軸がややぶれつつある。基本は対話路線だが、弱腰との批判をかわすため、アフガニスタンに関してだけは強硬姿勢だった。大幅な部隊増派は必至で、イラク戦争の二の舞いのおそれもある。
 「変革の旗手」とされるオバマ氏だが、必ずしもトップダウン型ではない。「何か問題ある? なければいいよ」。政策スタッフが担当分野の了解を求めると、大抵は任せるという。英国のシャインワルド駐米大使は七月に「オバマ氏は優秀な人々を起用することに自信を持っている」との報告書をブラウン首相に送っている。
 ただ側近が優秀でも、基本となる世界観があいまいでは周囲の不安は解消されない。いよいよ具体論が問われる段階だ。
 黒人の父と白人の母を持ち、自身を国民融和の象徴と位置付けるオバマ氏は勝利宣言でも「我々は単なる個人の集合ではなく、合衆国なのだ」と連帯を訴えた。だが、利害の反する多くの人々を束ね損なうと、八方美人に終わる懸念もある。
 超大国時代との落差に苦悩する米国民は次期政権下で内に閉じこもるのか、新たな一歩を踏み出すのか。オバマ氏の手腕次第で、海図なき世界はさらに激動しかねない。(ワシントン支局長大石格)


---------------


(社説)歴史的な経済危機に挑むオバマ大統領。2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 民主党バラク・オバマ上院議員の勝利を祝福したい。建国から二百三十年以上を経て、米国の有権者は初めてアフリカ系市民をホワイトハウスの主に選んだ。歴史的である。それがゆえに期待と不安がある。
 オバマ氏は強い大統領になる一定の条件を満たしている。獲得選挙人数から見て地滑り的勝利である。同時に投票された連邦議会選挙でも民主党が上下両院で圧勝した。ホワイトハウスの力が強まり、大統領の指導力に期待が集まる。

保護主義に陥らぬよう
 「変革」を掲げたオバマ氏の主張は、現状への異議申し立てである。必ずしも体系的政策ではない面がある。このために不安もつきまとう。アフリカ系市民を大統領に選んだのは、米国社会にとって実験だった。統合の機運がもたらしたオバマ氏のホワイトハウス入りが多民族社会の「分裂」を促す危険もありうる。
 来年一月二十日に発足するオバマ政権の最優先課題は、金融危機からの脱却と経済の立て直しである。大手金融機関に公的資金が注入され、本格的な金融危機対策が動き出したが、解決にはほど遠い。多くの金融機関はなお住宅関連証券などの不良資産を抱えたままだ。経営が困難な地方銀行も増えている。
 十月に成立した金融安定化法は最大七千億ドルの公的資金を活用し、金融機関の不良資産を買い取ったり、資本を注入したりする権限を米政府に与えているが、いずれこれだけでは足りなくなる可能性もある。
 金融システムが安定しない限り経済の回復は望めない。次期大統領は必要なら追加的な公的資金の投入を含めた万全の対応をすべきだ。
 新政権の評価を分ける試金石になるのは、不況からの脱却にいかに効果的な手を打てるかだろう。
 今回の金融危機の傷は深く、不況は長引く可能性が高い。オバマ氏は大恐慌に直面した同じ民主党のF・ルーズベルト大統領を意識してインフラ投資など思い切った経済刺激策や雇用対策を実施する方針だ。
 危機克服に財政支出の拡大は避けられない。積極的施策は必要だが、効果が出なければ財政赤字膨張を背景としたドルへの信認低下につながる恐れがある。かじ取りは容易ではない。二十一世紀版「ニューディール」政策は単純ではない。
 世界や日本にとっては、外に開かれた経済体制の維持も重要である。オバマ氏自身は「グローバル化に歯止めをかけるのは誤り」と考えるが、支持基盤の労働組合や民主党議員の間では自由貿易に異を唱える声が勢いを増している。地盤沈下が著しい米自動車産業への公的支援を求める圧力も高まっている。
 議会が保護主義的な立法に走らないよう、大統領の意思と行動力が求められる。足踏みしている多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)を前進させるうえでも、ホワイトハウスからの強い指導力が欠かせない。
 ブッシュ政権の下で暮らしが不安定になり、それが米国民の内向き傾向につながっている面がある。オバマ氏は、皆が医療保険に加入できるようにする医療制度改革を提唱しているが、これが実現できるかどうかも重要である。
 選挙戦で共和党候補のジョン・マケイン上院議員と明確に対立したのはイラク戦争の評価だった。オバマ氏は初めからイラク戦争反対の立場であり、十六カ月以内の米軍撤退を主張した。民主党陣営にも現実性を疑う見方がある。米軍撤退の公約をどう扱うか、試練になる。

日本からの提案も重要
 一方、アフガニスタンでの戦いを続ける点では、両候補の間に大きな差はなかった。皮肉にも、アフガニスタン情勢はイラクほどは好転していない。兵力を派遣している諸国から撤退論が出る可能性もある。米国がそれに同調すれば、一九八九年のソ連軍撤退後のアフガニスタンを国際社会が見捨て、テロリストの温床となった過ちの繰り返しとなる。
 日米関係に変化はあるか。
 米国は経済的に不安定な時期を迎えている。日本も新政権の対外経済政策を受け身の姿勢で見守るだけではいけない。経済の開放を進め、経済活動の障害を減らす日米自由貿易協定(FTA)の実現の後押し、エネルギーや環境面での協力強化の提案などが必要になる。
 日米同盟の重要性に対する認識はワシントンでは党派を超えてある。他方で中国の重要性に対する認識も一層深まっている。日中間で利害が一致しない問題が生じた場合、オバマ政権の立場は微妙になる。
 オバマ氏には、かつてケネディ大統領が醸した若さとカリスマ性が漂う。金融危機をきっかけに世界が苦しみ、超大国米国の立場の揺らぎが指摘される。オバマ氏が大統領として何をするかは、いま苦境にある米国が二十一世紀前半の世界でどのような存在になるかを決定づける。


------------------------------------------------------------


大統領オバマ氏、米景気浮揚、急務に、財政出動も視野――脱ブッシュ政権鮮明。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 【ワシントン=大隅隆】変革を掲げて登場するオバマ次期米大統領は、経済、政治の両面で深く傷ついた米国の再生が最大の課題になる。市場の失敗を踏まえて政府の役割を見直す一方、グローバル化の進展を見据えた新しい米国のかたちを示せるか。危機に直面する経済情勢が、年明けの新政権発足を待たずにオバマ氏の真価を試す展開になりそうだ。(1面参照)

危機対策は 財政出動も視野
 「この勝利はあなたがたのものだ」。四日の演説で十万人に語りかけたオバマ氏。だが勝利の美酒に酔える時間は短い。米国発の金融危機、それが景気を下押しする経済危機への対策を真っ先に迫られるためだ。
 七日に決算を発表するゼネラル・モーターズ(GM)。クライスラーとの合併に向けたかぎは政府が資金面を含めた支援に踏み込むかどうかだ。ポールソン財務長官は新政権の意向を踏まえるとみられ、オバマ氏は「もう一人の大統領」として世紀の合併のキーパーソンになってきた。
 中旬には米議会が再開し、追加景気対策の検討が本格化する。オバマ氏は公共事業による雇用創出を主張。民主党が議席を上積みしたこともあって、国内総生産(GDP)比で一%強にあたる千五百億ドル(約十五兆円)規模の景気対策が現実味を帯びてきた。脱ブッシュ政権を鮮明にし、かつてのニューディール政策のような大型の財政出動になる可能性がある。
 貸し渋りなど信用収縮が深刻な場合は、危機対策の拡充は不可欠。だが政府が果たすべき役割の線引きは、時代に応じて大きく振れる。
 大恐慌後の一九三三年に登場したルーズベルト大統領は預金保険公社や証券取引委員会を創設。大型財政出動による経済下支えを含め二十世紀の資本主義の枠組みを整えた。インフレなどの弊害が目立ち始めた八〇年代には、小さな政府を掲げたレーガン政権が登場。減税、規制緩和、市場機能の拡大を打ち出した。のちに「新自由主義」と呼ばれる考え方で、四半世紀にわたり世界の経済思想の主流を占めた。
 オバマ次期政権は富の集中などの弊害が目立ち始めた新自由主義から距離を置き、二十一世紀型の新しい資本主義を探る。規制を強化して社会の安定をめざす一方で、富裕層増税と中間層減税で所得再分配を拡大する構え。こうした政策をいつどんな形で具体化するかが焦点となる。

自由貿易は FTA見直しも
 経済政策の路線転換はグローバル化への対応にも影響しそうだ。
 米国は現在十四カ国と自由貿易協定(FTA)を締結している。オバマ氏は国内雇用の減少につながる北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを示唆。ブッシュ政権がめざしてきた韓国、コロンビアなどとのFTA締結にも懐疑的な姿勢を示している。
 水面下で懸念が浮上しているのは、米中の経済関係の行方だ。「大統領として中国からの輸入を条約や法律に触れないよう監視する」。十月末、オバマ氏は米繊維業界の団体にこんな決意を示した文書を送った。目前に迫った大統領選での支持獲得を狙う「政治的なレトリック」(民主党関係者)だったが、大統領就任後にはその帳尻あわせを迫られる。
 日本が米国の最大の貿易赤字国だった一九九〇年代。日米は半導体、自動車など個別分野で激しい経済摩擦を経験した。通商で米国が保護主義に傾くときには、現在米国が最大の貿易赤字を計上している中国との関係が焦点に浮上してくる。

為替政策は 「強いドル」路線 継承か修正か
 一九九〇年代のクリントン政権は、ゴールドマン・サックスの経営者だったルービン氏を財務長官に起用し、財政赤字削減で長期金利を低めに保つ政策と「強いドル」を歓迎する政策を掲げた。ブッシュ政権はこの「強いドル」路線を継承して、外国為替相場の安定を前提に世界中の資金を吸い寄せてきた。
 だが世界は米国を震源地とする金融・経済危機に揺れている。米国の経済力衰退に伴う基軸通貨ドルへの不安もくすぶっており、オバマ次期大統領が「強いドル」政策の維持を言明するかに市場の関心は集まる。
 現段階でオバマ氏の考えは不透明だが、「簡単には為替政策を修正できない」との見方が多い。中国など新興国の台頭もあって、米国債の外国人(非居住者)保有比率は九四年の一九%から二〇〇七年の五七%まで急上昇している。仮にオバマ氏が強いドル政策を修正し、ドル安による輸出競争力強化に動けば、米国への資金還流が急減。金利上昇など不測の影響が出かねないためだ。
 政府の役割拡大や通商政策の修正などオバマ氏が打ち出した「変革」は、市場機能との折り合いをどうつけるかが重要になる。新政権の模索は長く続きそうだ。


外交、国際協調に転換、対北朝鮮、対話軸に―イラク早期撤収、アフガン増派へ。

 【ワシントン=丸谷浩史】オバマ次期米大統領は「単独行動主義」とも称されたブッシュ政権の外交路線を、対話を軸とする国際協調に転換する。選挙戦の終盤で有権者の関心が低下したとはいえ、なお重大な課題である対テロ戦争ではイラク駐留米軍の主要戦闘部隊を十六カ月以内に撤収させ、アフガニスタンでの戦力増強に踏み切る。欧州各国との大幅な関係改善も期待できる。
 「積極的な外交努力」「友人、敵、すべての指導者と対話する」。オバマ氏が外交経験豊富なバイデン次期副大統領とともに手掛けた公約では、再三にわたって対話の重要性を強調してきた。
 大統領選討論会で共和党のマケイン候補が「危険な政策」と批判すると、オバマ氏は「米国がより安全でなくなったのは北朝鮮やイランと対話しなかったからだ」との論法を展開。自らの正当性を主張してきた経緯をみても対話路線が基軸になるのは間違いない。
 真価が問われるのはイラン、北朝鮮の核問題だ。オバマ氏は「行き過ぎた行為があれば制裁を強化する」と圧力強化の可能性は排除しない姿勢を貫いてきた。
 ただ、外交の基軸を対話路線に移した後もイランや北朝鮮が強硬路線をとる事態に直面すれば、対応が難しくなるのは必至だ。
 イラクからの早期撤収とアフガンへの米軍増派も、危険と隣り合わせの側面がある。アフガン重視を唱えるのは「国際テロ組織アルカイダを徹底的に掃討し、米本土を安全にする」との理由。ただアフガンは米軍死者が増加し、山岳地帯の作戦行動は困難を極める。アフガンでの「成功」への課題は多く、第二のイラクになる可能性さえはらんでいる。


同盟強化に課題多く、米側、成果に期待も――政府、関係構築急ぐ。

 【ワシントン=丸谷浩史】オバマ次期米大統領はアジア政策で日米同盟を基軸とする歴代米政権の方針を堅持しつつ、中国との連携強化も重視した多面的な外交を展開する。オバマ氏は具体論重視の姿勢で、日本にも目に見える成果を期待する路線とみられる。日本は北朝鮮問題やアフガニスタンでの対テロ戦争、在日米軍再編などで早急な政策調整が必要になる。
 米側から見た対日外交政策の焦点は、北朝鮮問題、アフガニスタン支援、米軍基地再編などだ。オバマ政権はいずれも具体的な成果を求めてくるとの見方が出ている。
 北朝鮮問題ではオバマ氏はブッシュ政権によるテロ支援国家指定の解除を「適切な対応」と評価。核問題を巡る六カ国協議を基礎とする多角的な安全保障機構を発展させることにも意欲を示す。拉致問題の重要性にも触れているが、力点は圧力より対話にある。
 アフガン関連では、「伝統的な同盟国」である日本に資金面などの貢献や負担の拡大を求めるのは必至だ。現ブッシュ政権は自衛隊のアフガン派遣が難しい場合、五年間で最大二百億ドルの戦費を負担するよう日本に打診している。
 十年以上も進展していない米軍普天間基地の移設問題に絡み、在日米軍再編の早期決着を促す機運が政権内で強まるとの予想もある。海兵隊のグアム移転は、米国内の経済情勢と相まって、米軍の財政負担を少しでも軽くしたいオバマ次期政権の焦点となる可能性も否定できない。
 これらの政策課題に対応するため、日本政府はオバマ次期政権と安定した協力関係の構築を急ぐ。麻生太郎首相は五日夜、記者団に「(米軍は)イラクへの派遣を減らし、アフガニスタンに重点を移していく流れだと思う」と指摘。対アフガン協力が当面の柱になるとの認識をにじませた。首相はオバマ氏との早期の電話協議を探る。
 政府はインド洋での給油活動の継続に全力を挙げると同時に、アフガン問題での追加的な貢献策も検討する見込みだ。
 北朝鮮問題では、日本国内には対話重視のオバマ氏が就任すれば北朝鮮への圧力が弱まるとの見方が出ている。「米中連携が加速して日本が埋没しかねない」(日米関係筋)との声がある。
 関係強化につながりそうな分野もある。オバマ氏が重視する環境政策や核軍縮などだ。政府は「日本の意思や政策を早めに伝える必要がある」(外務省幹部)と判断。今秋にオバマ陣営などの外交ブレーンも交えたセミナーを米国で三回にわたって開いた。今後も政権移行チームに接触し、連携策を探る考えだ。



オバマ人脈をみると。2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

閣僚人事は財務長官が焦点、ガイトナー氏ら候補に。
 オバマ次期米大統領は閣僚人事を含めた政権構想の策定を急ぐ。経済再生が最優先課題だけに、経済政策チームの顔触れが焦点。特に喫緊の金融安定化に向け、最大七千億ドル(約七十兆円)の公的資金活用の権限を握る財務長官の人事が政権運営を左右する。財務長官を先行して早期指名するとの観測も流れる。外交・安全保障担当閣僚も早急に固める意向だ。
 オバマ氏は十月三十一日のCNNテレビのインタビューで、財務長官人事に言及。「助言を期待する人物」として、陣営の経済顧問を務める米連邦準備理事会(FRB)のボルカー元議長(81)やサマーズ元財務長官(53)、著名投資家のバフェット氏(78)の名前を挙げた。
 オバマ氏は財務長官は「まだ決めていない」と強調。三氏についても「経済顧問のメンバーだ」と述べるにとどめる。
 金融危機への対応を考慮すると、有力候補とみられているのはニューヨーク連邦準備銀行のガイトナー総裁(47)。クリントン前政権でサマーズ氏の下で財務次官(国際金融担当)を務め、ルービン元財務長官(70)らの信任が厚い。
 議会民主党内では米連邦預金保険公社(FDIC)のベアー総裁を推す声も。サマーズ氏が再登板する可能性も残る。
 財務長官以外では、オバマ氏の経済顧問であるシカゴ大学のグールズビー教授が税制改革や通商政策を取り仕切るとみられる。経済政策の立案にはルービン、サマーズ両氏がアドバイザーを務めるシンクタンク「ハミルトン・プロジェクト」のメンバーが参加しており、両氏の影響力は大きい。
 二〇一〇年一月末で四年の任期が切れるバーナンキFRB議長の処遇も焦点。〇九年秋にはオバマ氏が大統領として、同議長を再指名するかどうかが議論の対象になりそうだ。(ワシントン=米山雄介)

対日政策は、ダンジグ元海軍長官ら軸。
 オバマ次期政権の対日政策は、安全保障面では上級外交政策顧問を務めるダンジグ元海軍長官らが軸になる。ダンジグ氏はクリントン政権の海軍長官。軍事的な問題では、防衛省幹部も「ダンジグ氏が政権にいれば問題はない」とみる。
 北朝鮮政策でかぎを握る一人になるとみられるのが、上院外交委員会のジャヌージ上級スタッフ。バイデン次期副大統領と親しい。核問題六カ国協議の首席代表を務めるヒル国務次官補が政権に残留する可能性もあり、関心を集めている。経済政策では国家安全保障会議(NSC)のグッドマン元アジア経済部長もキーパーソンだ。
 アジア政策はべーダー元国務次官補代理の役割も大きい。べーダー氏は現在、ブルッキングス研究所で中国センター所長の職にあり、中国との連携強化を志向するとみられる。(ワシントン=丸谷浩史)

安保・外交、共和党からも積極登用示唆。
 安保・外交分野ではオバマ氏は「超党派で取り組む伝統に戻りたい」と、共和党からも積極的に登用する可能性を示している。国務長官には民主党のケリー上院議員や共和党のヘーゲル上院議員らの名前が挙がっている。ホルブルック元国連大使も取りざたされる。選挙戦では「外交経験の不足」が焦点の一つだったこともあり、重鎮を起用する可能性がある。
 対テロ戦争の先頭に立つ国防長官にはイラク情勢を熟知するゲーツ現長官を留任させる選択肢も浮上している。
 ホワイトハウスで安保政策を直轄する国家安全保障の大統領補佐官には、オバマ陣営の外交顧問であるスーザン・ライス氏らの名前があがる。(ワシントン=丸谷浩史)


---------------


自民幹事長、「首脳会談、早期に」、民主は追い風に期待。

 米大統領選で民主党のオバマ上院議員が勝利したことを巡って五日、与野党幹部から発言が相次いだ。
 自民党の細田博之幹事長は「日本についてよくご存じとはいわれていない。より理解を深めていただいて、日本との関係がより良くなるように心から期待している」と強調。その上で「(オバマ氏には)麻生太郎首相と一日も早く会っていただきたい」と述べ、日米首脳会談の早期開催を求めた。
 一方、民主党の鳩山由紀夫幹事長は「日本でも政権交代を実現させないといけない、日本もチェンジが必要、と国民の皆さんがなるのではと期待したい」と表明。米民主党と同じ党名の民主党にとって、追い風につながるとの期待感を示した。


---------------


米国社会成熟、初の黒人大統領、移民急増が背景に。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 米国史上、四十四代目にして初の黒人大統領が誕生する。自由と民主主義を掲げる米国にとって、奴隷制時代を想起させる人種問題は、のどに刺さったとげのように暗い影を落としてきた。人種の壁を打ち破ったオバマ氏の勝利は米国民の成熟を映す一方、黒人の厳しい現実は残る。過去を知る黒人世代は信じられない思いで劇的な「変革」を見つめている。
 「惑星直列が起こったようだ」。父の代から黒人の権利向上を目指す公民権運動に携わり、ニューヨークで貧困問題に取り組むデビッド・ジョーンズ氏(60)はオバマ氏の偉業をまれな天体現象にたとえる。
 黒人大統領の誕生がいかに歴史的なことかは、数字が物語る。
 黒人は米人口の一三・五%を占める。しかし、選挙前の政治勢力では、連邦下院議員は四十人で約九%。上院議員は百人のうちオバマ氏のみ。五十州のうち選挙で当選した知事はマサチューセッツ州のパトリック氏だけだ。閣僚もライス国務長官一人しかいない。
 選挙区が小さい下院では黒人住民が多い地域で勝てるが、白人が多数派となる州単位の上院・知事選では黒人の当選は極端に難しい。ましてや全米が対象の大統領選では不可能とみられていた。唯一、有望といわれたパウエル元国務長官は妻が暗殺を恐れて出馬を見送らせたといわれている。
 オバマ氏は母がカンザス州出身の白人、父はケニアの黒人で、先祖に奴隷を持たず、黒人候補としてはむしろ異端。差別是正を声高に叫ぶ従来の候補者像と違ったことが、白人の抵抗感を和らげた。ブッシュ政権への失望や金融危機もオバマ氏には有利に働いた。
 初の黒人大統領誕生について、ボストン大学のドン・モンティ教授は「米国民が歴史を受け入れて成熟し、人種的に寛容になった表れ。移民の波が押し寄せる時代を映している」と評価する。
 米国ではヒスパニック、アジア系などの住民が急増し、建国以来、多数を占める白人の比率は低下している。ヒスパニック系有権者もオバマ氏当選を後押ししており、選挙結果は一億人を超える非白人社会を刺激する可能性がある。
 ただ、黒人の社会進出はまだ途上。大手企業の経営者は少なく、失業率は白人の二倍以上だ。初の黒人大統領の誕生でこうした現実に「変革」が起きるか注目される。(米アリゾナ州フェニックス=中前博之)


------------------------------------------------------------


(2008年米大統領選)2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

オバマ氏、幅広い層が支持、女性56%、ヒスパニック66%、白人の若者も過半 出口調査

 【ワシントン=藤井一明】米大統領選で圧勝した民主党のオバマ氏は女性や黒人、若者層から幅広い支持を集め、共和党のマケイン氏を引き離した。集票の課題だった白人層も若い世代がオバマ氏に傾き、前回の二〇〇四年の選挙で共和党のブッシュ候補が制した州を民主党が相次いで奪った。金融危機をきっかけに景気後退懸念が高まり、不満を強めた低所得者層がオバマ氏支持に回ったことも追い風になった。(1面参照)

 オバマ氏は激戦州とされたオハイオ、フロリダ、バージニアで勝利を収め、もともと共和党の地盤が強かった中西部のアイオワ、西部のコロラド、ニューメキシコ、ネバダでもマケイン氏を突き放した。これら七州は前回、ブッシュ氏が勝ち、共和党カラーの赤にちなんで「レッドステーツ」と呼ばれてきたが、民主党のブルーに勢力図が塗り替えられた。
 全米約一万八千人から回答を得た米メディアの出口調査によると、オバマ氏の男性からの支持率は四九%で、マケイン氏の四八%とほぼ並んだ。一方、女性はオバマ氏五六%、マケイン氏四三%と、オバマ氏になびいた。オバマ氏の黒人の支持率は九五%、ヒスパニックは六六%に達する。
 年代別にみると、オバマ氏がマケイン氏にリードを許したのは六十五歳以上の高齢層のみ。三十歳から六十歳代前半までは小差でマケイン氏をかわしたほか、十八歳から二十九歳の若者は六六%がオバマ氏を支持し、三二%のマケイン氏とは倍以上の大差がついた。
 一方、白人全体のオバマ氏の支持率は四三%にとどまり、マケイン氏は五五%と強さを示した。ただ十八―二十九歳の白人に限ると、オバマ氏の支持率(五四%)はマケイン氏(四四%)を一〇ポイント上回った。
 今回の大統領選では、黒人の候補に対して事前の世論調査よりも実際の選挙で得票率が低くなる「ブラッドリー効果」と呼ばれる現象を予想する声もあった。現実はオバマ氏の優位を伝えた世論調査にほぼ沿う結果となり、若い世代の支持を背景に、人種問題に伴う投票行動の揺れはあまりみられなかった。
 所得階層別では、年収一万五千ドル(約百五十万円)未満のオバマ氏の得票率は七三%で、マケイン氏の二五%を圧倒。一万五千ドル以上三万ドル未満の層でも六〇%の支持を集めた。二十万ドル以上の富裕層もオバマ氏への支持は五二%に上り、マケイン氏の優位は十万ドル以上二十万ドル未満の層など一部に限られた。経済危機への対応が問われた選挙戦となり、現状の経済政策の転換を訴えるオバマ氏に有利に働いた。
 日本時間六日午前一時現在、ノースカロライナ、ミズーリ両州の結果は確定していない。


得票率に比べなぜ大差つく。州別に総取り方式 「死に票」大量発生

 全国の得票率の差が六%なのに、獲得した選挙人の数に二倍以上の大差が付くのはなぜか。オバマ氏「圧勝」の背景には、各州で一票でも上回れば、その州に割り当てられた選挙人を総取りする仕組みがある。言い換えれば大量の「死に票」が発生しているということだ。
 例えば最大の票田、カリフォルニア州(選挙人五十五人)。日本時間五日夜現在、オバマ氏の獲得票は約六百万票、マケイン氏は三百四十万票。オバマ氏が五十五対ゼロで選挙人を総取りし、マケイン氏を支持した三百四十万票は選挙人獲得に何の影響も与えない。
 激戦州のミズーリ州では百四十四万票(マケイン氏)対百四十三万票(オバマ氏)という大接戦のため勝者を判定できていない。数千票の動向次第で選挙人十一人がどちらかの候補に行く。候補者が激戦州で集中的に遊説するのはこのためだ。
 全国総得票数による勝負となれば、候補者はニューヨークやカリフォルニアなどの大票田でしか選挙活動しなくなる恐れがある。総取り方式は普段、日の当たらない小規模州に候補者をひき付ける狙いがある。


64%、投票率最高に。米大推計

 【ワシントン=弟子丸幸子】全米の注目を集めた今回の大統領選の投票率は、推計値で六四・一%と、過去最高水準を記録したもようだ。米ジョージ・メイソン大が推計をまとめた。これまでの最高は、記録が残っている一九六〇年以降で、ケネディ大統領が当選を果たした六〇年の大統領選の六三・八%。
 六〇年より前の投票率をめぐっては諸説があり、AP通信は一九〇八年の六五・七%が過去最高だったと報じている。


各地の投票所トラブル続出、有権者登録ミスなど

 【ワシントン=弟子丸幸子】米大統領選の投票日の四日、全米各地の投票所では有権者登録のミスが発生するなどのトラブルが相次いだ。俳優のティム・ロビンスさんも“被害”に遭った人の一人。同日朝、マンハッタンの投票所を訪れたところ、有権者名簿に名前の記載がないことが判明。投票できるまで何時間も待たされたという。
 電子投票機の普及が進む米国ならではの事故もあった。ミネソタ州では電柱にトラックが激突し、二カ所の投票所が停電。九十分間にわたり、投票機が使用できない状態が続いた。このほかにも多数の投票所で、機械が故障するなどの問題が発生した。いずれも米メディアが伝えた。


オバマ氏勝利宣言要旨―目標への到達約束

自由や希望は米の気質
 米国はすべてが可能な場なのだということを、世の中にまだ疑っている人がいるだろうか。民主主義の力に疑問を抱いている人がまだいるとしたら、今夜が君たちへの答えだ。
 我々は単なる個人の集合でも、赤い州(共和党)と青い州(民主党)の集合でもなく、今でもいつまでも合衆国なのだ。米国に変革(Change)の時が到来した。
 マケイン上院議員から素晴らしく礼儀正しい電話をもらった。愛する国のために、想像を絶するような犠牲に耐え抜いてきた人物だ。マケイン氏と(副大統領候補の)ペイリン氏が成し遂げたことを祝福したい。この国との約束を新たにするために、彼らと協力することを楽しみにしている。
 この勝利は君たちのものだ。だがこうして勝利を祝っている間にも、我々は二つの戦争、一世紀に一度の最悪の金融危機のさなかにある。イラクの砂漠で目覚める勇敢な米国人がいれば、アフガニスタンの山々で我々のために命を危険にさらす人々がいる。
 前途は長く、登る坂は険しい。一年や一期(四年)では到達できないかもしれないが、目標の地点に必ずたどり着くと、私は君たちに約束する。
 米国のリーダーシップは新たな夜明けを迎えた。世界を破壊しようとする者は打ち倒す。平和と安定を求める者は支えよう。米国の真の力は軍事力や資金力ではなく、我々の理想が持つ永遠の力だ。民主主義、自由、機会、希望は米国の真の気質だ。
 次の世紀まで生きる子供たちが目にする変革はどんなものになるのだろうか。アメリカン・ドリームを取り戻すために永遠なる信念に応えていきたい。我々はできる(Yes We Can.)。(ワシントン支局)


マケイン氏敗北宣言要旨

 今回は歴史的な選挙だった。アフリカ系米国人(黒人)に特別な意義があり、格別の誇りを感じているに違いない。私は、米国が機会をつかむ勤勉さと意志を持つ者にはそれを与えると信じてきた。オバマ氏もそう信じている。
 一世紀前、ルーズベルト大統領が(黒人教育者の)ブッカー・T・ワシントンをホワイトハウスに招いた時、常軌を逸した行動と言われた。当時の残酷で醜い偏狭さは過去のものとなった。黒人が米大統領に選出されたことほど、その証しとなるものはない。
 我々が直面する多くの課題に対処するため、我が国を導くオバマ氏を私は全力で支援すると誓った。今夜は落胆を感じるのも当然だが、明日になれば、我々は協力しなくてはならない。
 かつて私の競争相手で私の大統領となる人物の成功を祈る。すべての米国民に現在の困難に絶望せず、米国の約束と偉大さを信じるよう呼び掛けたい。(ワシントン支局)



オバマ氏、型破り戦術奏功―ネットで献金集め。草の根組織生かす

 【ワシントン=丸谷浩史】オバマ氏は既存の組織やノウハウに頼らない新しい選挙戦術を駆使した。インターネットの積極活用、小口献金による巨額の献金集め、ボランティア中心の草の根型組織など、これまでの「常識」と「前例」を覆す手法を取り込み、史上最長規模の選挙戦で勝利にこぎ着けた。
 最大の特徴はネットと「アナログ組織」を融合させた点にある。ネットを通じて少額献金をクレジットカードで支持者から集める体制を築き、携帯電話のメールを活用してボランティアを募集したり、集会のお知らせを流したりした。
 お知らせなどを送る際には「友人や知人にも送って」と念を押し、これが結果的に草の根レベルの動員力を膨らませた。数万人単位の集会を全米各地で何度も開いたのは「口コミ」の効果が大きかった。「副大統領候補を真っ先に知らせる」との理由で集めた携帯電話番号のリストは、最終盤の機動力に大きく貢献した。
 こうした戦術を武器に、伝統的な民主党の地盤だけでなく、共和党地盤にも攻め込み、全体の集票力を底上げした。



マケイン氏、2度の賭け裏目、ペイリン氏起用・一時停戦

 【米アリゾナ州フェニックス=中前博之】「最高齢の米軍最高司令官」を目指した共和党のジョン・マケイン候補(72)。支持率が低迷する同じ共和党のブッシュ現政権の間合いに最後まで苦しみながら、ペイリン副大統領候補の起用と、金融危機をにらんだ異例の選挙戦の一時停止に踏み切り、起死回生を探ったが“二度の賭け”はいずれも奏功しなかった。
 「我々は絶対にあきらめない。最後は勝つ」。投票日当日の四日も異例の遊説を展開したマケイン氏の声は絶叫に近かった。直前には人気コメディー番組にもシンディ夫人と出演。「民主党のオバマ候補ほどお金がないので……」と自らを笑いものにして親しみやすさを売り込んだが、逆転は果たせなかった。
 陣営が選挙戦を通じて苦悩したのはブッシュ大統領のカゲだった。昨夏に、選挙戦離脱まで取りざたされたマケイン氏は駐留米軍の増派で安全保障の専門家としての評判を高め、勢いを取り戻したが、増派はブッシュ政権が推進した政策でもある。「第三期ブッシュ政権」(オバマ陣営)との批判は重くのしかかった。
 保守派の女性知事、ペイリン氏の起用は保守派の支持固めにはつながったが、ペイリン氏の経験不足が露呈したことから無党派層は逃がす結末となった。オバマ氏へのネガティブ・キャンペーンをテレビCMでは展開しながら、自らは積極的に攻撃しない態度に、保守派の支持者は「なぜもっと批判しないのか」と不満を募らせた。
 金融危機の高まりを受け、選挙活動の一時停止や討論会の延期を打ち出した「奇策」も不発だった。結局、実施された討論会ではオバマ氏が優勢に立ち、金融政策に疎いとの印象が最後までつきまとった。
 大手証券リーマン・ブラザーズの破綻直後、「米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は強い」といったん発言しながら、あわてて「危機だ」と訂正した対応のブレも追い打ちをかけた。


---------------


各国メディア論調、対話外交に好意的評価。2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 民主党政権としてはここ三十年間で例のない厳しい経済状況下での船出となるオバマ氏に、米・欧・アジアのメディアは社説などで相次ぎ期待を示している。深刻な金融危機や財政状況の悪化などを背景に、景気下支えなどで経済政策での果断を求める論調が目立ち、欧州ではブッシュ現政権と異なる外交分野の「対話路線」を好意的に受け止める声もある。
 ▼米ワシントン・ポスト(電子版) 有権者はオバマ氏に、ブッシュ政権やマケイン氏よりも優れた経済政策を期待している。地球温暖化など現政権が失敗した課題に対処できると考えている。ただ、米国で差別は残っており、黒人大統領が機能するかどうかは未知数といえる。
 ▼米ニューヨーク・タイムズ(電子版) イラクから撤退しアフガニスタンのテロとの戦いに集中すべきだ。代替エネルギー開発を急ぐ必要がある。ちぐはぐな金融機関救済策の早期立て直しや移民政策も重要だ。
 ▼米ウォールストリート・ジャーナル(電子版) 民主党は議会選でも大勝した。オバマ氏が「労働者の九五%」向けの減税を約束したことに注目する。(公約と対照的に)税金が増えると考える有権者は七〇%に上り、うち五五%がマケイン候補に投票した。米国民は民主党が国を統治するすべを学んだかどうかを目にするだろう。
 ▼英タイムズ 米国民は再び独特の自己革新能力を発揮した。初の黒人大統領選出は歴史的だ。経済再建などオバマ氏の挑戦も歴史的になる。
 ▼仏ルモンド 米国民は二十一世紀の世界で米国が要する候補を選んだ。黒人は自分たちが米国民だとさらに強く考えるようになる。米新政権は同盟国との関係強化だけでなく、イランのように対立する国々との対話も進めるだろう。オバマ氏当選は世界にとってチャンスだ。
 ▼中国・新華社 米議会は民主党が優勢になる。同一政党がホワイトハウスと議会で優勢になると、民衆の警戒心を引き起こすため、世論の抵抗などに直面するだろう。オバマ氏が大統領就任後に第一に着手するのは経済の立て直しだ。危機を克服できるかを世界が注目している。



識者の見方、金融危機では即座に主導権を、経済好転なら政権長期化も。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のデレク・ミッチェル上級研究員(元国防総省特別補佐官) ケネディ元大統領が誕生した時のように、世代交代の波が米国に押し寄せたといえる。オバマ氏が大統領として最初に直面する課題は多い。金融危機では即座に主導権を発揮せねばならない。イラク、アフガニスタン政策も最優先課題になる。気候変動、中東和平、エネルギー、医療保険改革も喫緊の課題になるだろう。(ワシントン支局)
 東京大学の久保文明教授 一九六〇年代まで公然と人種差別があった国の直接選挙で黒人が選ばれた歴史的意義は非常に大きい。「変化する米国」を世界に印象づけた。当面の焦点はオバマ政権がいかに経済を立て直せるかだ。好転しないと熱狂が早く冷める可能性もあるが、うまく改善できた場合、民主党の長期政権につながるかもしれない。
 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのS・ケーシー講師 オバマ氏が掲げる「変革」の即時実現は難しいだろう。外交ではイラク・アフガニスタン問題、内政では経済の立て直しが手足を縛る。
 イラクからの部隊撤退の道筋をつけることは極めて困難だ。経済問題への対応能力は(オバマ氏への評価を)大きく左右するだろう。新指導者への期待は失望に転じるリスクがある。(欧州総局)


---------------


民主、上下両院で大勝、政権・議会の「ねじれ」解消、党の掌握焦点。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 【ワシントン=弟子丸幸子】米大統領選と同時に四日に投開票された米上下両院選では、民主党が大幅に議席を伸ばし、大勝した。民主党がホワイトハウスと議会を同時に制するのはクリントン政権が誕生した一九九二年以来、十六年ぶり。政権・議会の「ねじれ」が解消し、政権を安定運営する基盤が整うが、党内が通商政策などで過度に保護主義色へ傾斜する事態も想定される。オバマ氏は党内の掌握も問われることになる。
 AP通信によると、上院(定数百、改選議席数三十五)では五日午前(日本時間六日未明)時点で、非改選も含めた新勢力が、民主党(無所属二含む)五十六、共和党が四十となった。
 残る四議席は、汚職問題で有罪判決を受けた共和党のスティーブンズ議員らが大接戦を繰り広げている。民主党は議会運営上の「安定多数」となる六十議席の確保を目指しているが、厳しい情勢。共和党は大統領候補になったドール元上院議員の妻を含む現職議員二人が相次いで落選した。
 下院(定数四百三十五、全議席改選)は民主党が既に二百五十一議席を獲得し、半数を大幅に上回った。ペロシ下院議長や、従軍慰安婦問題で日本政府に謝罪を求める決議案を提出したマイク・ホンダ議員らが当選。共和党は百七十三議席にとどまっている。
 民主党が行政府と議会を制したことについて「チェックとバランスを重んじる三権分立がうまく機能するかが課題になる」(米ヘリテージ財団のジェームズ・ディーン研究員)との指摘も出る。民主党は自由貿易協定(FTA)に消極的で、雇用維持へ国内産業を保護する政策への傾斜が強まりかねない。
 一方、米議会では党議拘束がなく、民主党議員は足並みがそろわないことで知られる。今選挙でも「確実に勝てる候補」の擁立を目指した結果、同党の新人には共和党寄りの主張を唱える向きが多いとされ、オバマ次期大統領の意向通りに議事が進まない可能性もある。
 【ワシントン=弟子丸幸子】米大統領選と同時に四日に投開票された州知事選でも、民主党が勝利する結果となった。今回の知事選は全米五十州のうち十一州で実施。民主党は七州で勝利し、このうちデラウェア、ノースカロライナ、ミズーリの三州を新人が制した。共和党は四州の現職知事が再選を果たした。



個別政策、36州で住民投票、中絶禁止案2州否決、オハイオはカジノに「ノー」。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 米大統領選に合わせて四日、三十六州が州ごとの政策を巡る住民投票を実施した。AP通信などによると、コロラド、サウスダコタ両州は妊娠中絶の全面禁止につながる提案を否決。州財政均衡策の一環としてスロットマシン約一万五千台の設置を許可する案をメリーランド州が可決した一方、オハイオ州はカジノ開設案を否決した。
 全米で実施された住民投票は合計百五十三件。大統領選では大きな争点とならなかった中絶や同性婚などの社会問題を問うものが目立った。
 コロラド州の提案は中絶を「殺人」とみなす内容で、大差で否決。サウスダコタ州も二〇〇六年の中間選挙に合わせて実施した住民投票に続き中絶禁止を否決した。
 同性婚禁止はアリゾナ、フロリダ両州が新たに可決。同性婚を禁止する州は全米で二十九州となった。ワシントン州は安楽死の合法化を承認した。ネブラスカ州は大学入試などで黒人ら少数派や女性に配慮する差別是正措置(アファーマティブ・アクション)の禁止を可決した。(ワシントン=芦塚智子)



母が白人オバマ氏なぜ「黒人」、本人が主張。2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 オバマ次期大統領はなぜ黒人か――。米メディアで、同氏の「人種」の定義を巡る議論が繰り広げられている。父が黒人、母が白人のオバマ氏は「米国初の黒人大統領であるとともに、四十四番目の白人大統領ともいえる」(CNN)との見方もある。
 米国では国勢調査の際に「人種」の選択を迫られる。二〇〇〇年の調査から「混血(マルチレイシャル)」という選択肢が登場、複数回答も可能になった。ただオバマ氏は演説などで「黒人」だと主張している。
 自伝「マイ・ドリーム」によると、少年時代のオバマ氏は雑誌「ライフ」で、皮膚の色を白くしようと化学療法を受けて不自然に青白くなった黒人の写真を見て衝撃を受けた。米国の人種問題の深刻さを痛感し、自らは黒人だとの認識を深めたという。
 米国では「ワン・ドロップ・ルール(一滴主義)」という考え方があり、少しでも黒人の血が入っていれば黒人と見なされた。最高裁は一九六七年に一滴主義を違憲と判断したが、その後も、色の黒い人はたとえ混血であっても「白人」を選択しづらい状況にある。


------------------------------------------------------------


オバマ次期大統領、生い立ち・人種、苦悩原点、周囲との対話大切に。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 バラク・オバマ次期米大統領(47)が誕生した一九六一年は、過半数の州で、異人種間の結婚が重罪になる時代だった。公民権運動に生涯をささげた故キング牧師が「私には夢がある」とのフレーズで人種間の平等を訴えたのはオバマ氏が二歳の時。キング牧師の名演説から四十五周年の記念日に、大統領候補の指名を黒人初で受諾した。

 父はアフリカ・ケニア出身の黒人、母は米カンザス出身の白人。常夏の島ハワイで二人は恋に落ち、親の反対を押し切って結婚した。
 父から譲り受けたファーストネームの「バラク」には「恵まれた者」との意味がある。ただ、恵まれた幼少期とはいえなかった。二歳の時、父は家族を置いてハーバード大の奨学生としてハワイを去る。間もなく両親は離婚。父はケニアに戻り、三人の女性との間に子供をつくった。その後、父が他界するまでに一緒に過ごした期間はたったの一カ月。一緒の写真も一枚しかない。自分は父親にとって何なのか――心の中で父を受け入れるため長く葛藤した。

 六歳で母の再婚相手の出身地インドネシアに移住。インターナショナルスクールに通う経済的余裕がなく、自宅で早朝から通信教育の教材で学んだ。
 十歳でハワイに戻り、黒人差別に直面する。「クーン(黒人)」。学校で初めて差別用語で呼ばれた日は、相手の顔を鼻血が出るまで殴った。黒人としての居場所を探し続けコロンビア大に進学。人種問題で悩み、コカインを使用したと後に告白している。
 若かりしころは小説家を夢見た。その夢を抱えながら、大学卒業後シカゴで社会奉仕活動に従事。次第に理想と現実のギャップに悩み始める。「おまえが成功していくのがおれたちの誇りなんだ」。友人からこう背中を押され、ハーバード大の法科大学院に進んだ。

 人との対話を大切にするスタイルはシカゴ時代の苦悩に原点があるという。「とにかく会議では知らない分野ほど、よく質問する。周りの人の話に耳を傾ける」。外交顧問のフランク・ジャヌージ氏はオバマ氏についてこう評する。
 弁護士資格を得た後、イリノイ州下院選に出馬し落選。その後、イリノイ州議会議員となり、政治家としての大きなチャンスをつかむ。前回大統領選の二〇〇四年、全国区では無名ながら、民主党全国大会の基調演説者に抜てきされた。
 「黒人の米国、白人の米国、ヒスパニックの米国などない。我々は一つの国民だ」。この名ぜりふで聴衆の心をつかみ、オバマ氏は一躍、民主党のスターになる。将来の大統領候補との呼び声はこの時点であがった。同年十一月、イリノイ州から上院選に出馬し、初当選した。(ワシントン=弟子丸幸子)



バイデン次期副大統領、波乱人生「闘犬」の異名、失言癖の克服課題。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 副大統領候補への起用をオバマ氏から電話で直接告げられた時、ジョゼフ・バイデン氏(65)は歯の治療中だった。当初最有力の候補ではなかったが、ロシアによるグルジア侵攻を機に急浮上。外交通の同氏に白羽の矢が立った。米議会の有力ポストである上院外交委員長を務める民主党の重鎮。「人が野球を語るように外交を語る」と評される。
 米東部ペンシルベニア州の炭鉱の町に生まれた。父は中古車のセールスマン。決して裕福ではなかった幼少期を過ごした。きつ音でうまく会話できず、友達にからかわれたこともあった。
 ニクソン共和党政権の時代に、二十九歳の若さで上院議員に初当選。そのわずか一カ月後、クリスマスの買い物をしていた家族が交通事故に遭い、妻と娘(当時一歳)を失った。重傷を負った二人の息子の入院先で議員への就任を宣誓した。看病のために毎日、自宅とワシントンの間を往復三時間かけて電車通勤した。息子のひとりは大統領選の最中の今秋、イラクに派遣された。
 前妻の死から五年後、学校の先生のジル夫人(57)と再婚。兄弟の紹介で出会い、一女をもうけた。その後も波瀾(はらん)万丈の人生が続く。一九八八年の大統領選の候補指名レースに出馬するも、英労働党首の演説盗用疑惑が浮上して撤退。間もなくして脳動脈瘤(りゅう)で倒れ、七カ月の闘病生活を送った。
 「闘犬」「無頼派」と評される。機知に富んだ言動で予備選を戦ったオバマ氏を「クリーンで格好いい初めての黒人主流派」と寸評し、人種差別的との批判を受けたこともある。“失言癖”の克服が課題だ。(ワシントン=弟子丸幸子)



ミシェル夫人、法律事務所で指導役、単独遊説に1万人。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 「私の礎(rock)」。次期米大統領に決まったオバマ氏は、ミシェル夫人(44)のことを信頼と愛情を込めてこう呼ぶ。選挙運動では夫を支えるだけでなく、自らもアメリカン・ドリームの体現者として有権者に感銘を与えてきた。
 一九六四年、シカゴの「サウスサイド」と呼ばれる黒人中低所得者層が多く住む地域で生まれた。ジャズやブルースの本場でもある。父は市の水道局職員で、母は主婦。兄と四人家族で、1DKのアパートに育った。
 白人学生が大半を占める名門プリンストン大学に進学し、人種の壁に直面する。偏見を実力ではねのけようと、同大を優秀な成績で卒業。ハーバード法科大学院合格を果たした。
 オバマ氏との出会いは、ハーバード修了後に就職したシカゴの法律事務所で、まだ学生だったオバマ氏の指導役についた時。デートの誘いを一度は断るが、貧困層支援団体の会合でのオバマ氏の演説に心を動かされる。米誌の取材で「この人は特別だ、と直感した」と語っている。
 オバマ氏の影響もあって弁護士事務所を辞め非営利団体での活動にかかわるようになり、現在は選挙運動のため休職しているがシカゴ大学病院副院長を務めている。
 オバマ氏の出馬表明前に、勝算や選挙資金計画などについて陣営幹部を質問攻めにしたのは有名な話。中でも最大の条件にしたのは「家族を犠牲にしないこと」。二人の娘が「普通の生活を送れること」を常に最優先してきた。
 単独の遊説でも一万人以上の観衆を集めるなど、パートナーとして選挙運動に貢献。予備選の勝利集会でオバマ氏のほおを軽くたたいて演壇に送り出したり、黒人の若者がよく使う互いのこぶしを突き合わせるしぐさでたたえ合ったりする姿が話題を集めた。
 ファーストレディーとしての仕事について、米誌のインタビューで女性の仕事と家庭の両立支援や貧困層の大学進学促進に取り組むことに興味があると語っている。
 八月の民主党大会では「シカゴのサウスサイド出身の娘が法科大学院に進み、ハワイ生まれのシングルマザーの息子が大統領を目指すことができるこの素晴らしい国で、私たちがよりよい世界を築こうとしたことを次の世代に伝えたい」と演説し、大歓声を浴びた。
 黒人初の大統領となる夫とともに、黒人初のファーストレディーとして歴史に名を刻む。(ワシントン=芦塚智子)



テーマソング「融合」うたう、スティービー・ワンダー、「黒人」を前面に。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 米国は大統領選や上下両院選などの選挙では、候補者が特定のテーマ曲を選び、集会や遊説で支持者の興奮を高めるのが通例。「米国の融合」を唱えるオバマ氏はテーマ曲も微妙な人種問題が残る米国の事情に配慮した選曲をみせた。
 頻繁に使うのはスティービー・ワンダーの「涙をとどけて」。黒人ソウル音楽の代表的レーベルのモータウン在籍時にワンダーが発表した曲で、オバマ氏が自らの黒人の属性を前面に出した選択といえる。
 だが「黒人のための候補」ではないことを曲の選び方でも示した。予備選の途中からは、同時テロ直後に米国民に融和と結束を訴えたブルース・スプリングスティーンの「ザ・ライジング」を使った。十月中旬、スプリングスティーンとビリー・ジョエルが開いた支援コンサートでオバマ氏は「子供のころから聴いていた曲の数々」と、白人文化にも親しんできたと強調した。
 もともとロックミュージシャンは民主党に親近感を抱く人が多い。共和党のマケイン候補やペイリン副大統領候補がテーマソングに使った曲の作者に抗議されて使用できなくなった例があったのとは対照的に、オバマ氏には選曲の自由があった。(ワシントン=丸谷浩史)


------------------------------------------------------------


「オバマ大統領」で株・ドルは…、専門家に聞く―市場、下支え効果期待。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 四日の米大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が当選を決めた。日本では金融安定化策や景気対策の実行に期待感が高まっている。オバマ氏の勝利は日米などの株価やドル相場を下支えし、目先の市場はやや落ち着くとの見方が大勢だ。ただ米国の景気や財政の悪化による株安・ドル安の懸念は消えず、新政権の経済運営を見極めたいとの声も出ている。(1面参照)

 米国では金融危機が実体経済を下押ししており、七―九月期はマイナス成長となった。オバマ氏は景気を刺激するため、中間層の所得税減税や公共事業の拡大を主張している。日興シティグループ証券の佐野一彦氏も「目先は景気の下支えを優先する」とみる。
 「民主党が政府と議会を押さえ、迅速な政策の実行が可能になる」(バンク・オブ・アメリカの藤井知子氏)との読みもはたらく。こうした景気対策への期待感が持続するかどうかが当面の市場動向を左右する。
 五日の東京株式市場では日経平均株価が大幅続伸し、三週間ぶりに九五〇〇円台を回復した。主力株を買い戻す動きが続いており、二十六年ぶりの安値をつけた十月二十七日からの上昇率は三三%に達した。
 だが指標面での割安感は薄れつつあり、上昇相場が持続するかどうかは不透明だ。世界的な景気悪化に対する懸念は根強く、上値の重さを指摘する声もある。
 米大手金融機関への公的資金注入に続き、米ゼネラル・モーターズ(GM)と米クライスラーへの政府支援に注目する市場関係者も多い。米財務省は直接的な金融支援に否定的とされるが、雇用の悪化に歯止めをかけない限り「株式市場への資金流入は期待しにくい」(国内証券)という。
 米景気の悪化はソニーやホンダなど日本のグローバル企業の収益も圧迫している。米国の景気対策が効果を発揮するかどうかを慎重に見極めたいとの空気も強い。
 一方、五日の東京外国為替市場では、オバマ氏の勝利が伝わった直後に利益を確定してドルを売る動きも出た。それでも「十月下旬のような急激な円高・ドル安には歯止めがかかる」(国内銀行)とみられている。
 しかし金融危機の収束にはなお時間がかかりそうで、中長期的なドル安懸念が消えたわけではない。三井住友銀行の宇野大介氏は「ドルが暴落するようなら主要国の協調介入もあり得る」と話している。
 債券市場では景気対策に伴う巨額の財政出動で、債券の需給が悪化するとの見方がある。米国の景気悪化を織り込みつつも、長期金利の低下余地が限られるとの予想が多い。財政悪化への不安が強まれば、中長期的にはドル離れが進むとの声も根強い。



経済界反応、危機打開へ指導力期待。2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 日本の経済界ではオバマ次期米大統領に期待する声が相次いだ。日本経団連の御手洗冨士夫会長は五日、都内で記者団に「世界経済は大きな危機に面しており、経済や金融面での課題を解決するためにリーダーシップを発揮してもらいたい」と述べた。具体的な経済政策については「中低所得者を重視した富の再配分、ある程度の減税、自動車産業への公的支援があるかもしれない」と語った。
 経済同友会の桜井正光代表幹事は「基軸通貨ドルの信認を確かにし保護主義に陥ることなく自由貿易体制を堅持するのが世界経済の発展に重要」とのコメントを発表した。
 日本商工会議所の岡村正会頭も「今月十五日の金融サミットに出席し、世界同時不況を阻止する枠組みづくりを期待したい」との談話を出した。



日本政府、経済政策、出方を注視、環境問題は協調期待、牛肉問題で圧力懸念。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 オバマ次期米大統領の経済運営を巡り、日本の政府には期待と不安が交錯している。オバマ氏は地球温暖化対策に前向きで、日本は米国との協調を探る。ただ農業問題や通商問題では日本に厳しい対応を求める可能性もあり、今後の出方を注視する構えだ。
 「同じ民主党のクリントン政権時代のような貿易摩擦は起きないだろう」。外務省幹部は日米経済関係の先行きを楽観している。米国の貿易赤字のうち対日赤字が占める割合は、一九九一年の五〇%超から二〇〇七年には一〇%程度まで低下。貿易摩擦の主役は中国に変わった。

 ■国際的枠組みで前進も 「懸念材料は摩擦より無関心」(経済産業省筋)。民主党のアジア政策は中国に向きがちだ。日本は自国への関心をつなぎとめるためにも、グローバルな課題での日米連携を目指す。
 金融危機への対応は避けて通れない。だが来年以降を見据えれば地球環境問題が焦点になる。ブッシュ現政権が温暖化対策に後ろ向きだっただけに、オバマ次期政権が温暖化ガス削減の新たな国際的枠組み(ポスト京都議定書)に「参加を表明するだけでも前進」(環境省)という。
 オバマ氏は企業に排出削減目標を課し、その過不足分を市場などを通じて売買する排出量取引制度の導入にも前向きだ。欧州連合(EU)は〇五年から導入済みで、日本も十月から試行を開始した。世界的な「炭素市場」が形成される可能性もある。

 ■通商政策、農業で火種 通商政策では保護主義の色合いが強まるとの懸念も出ている。農業分野は特に厳しい試練にさらされそうだ。
 農業では米国産牛肉の輸入問題が懸案の一つ。日本は生後二十カ月以下の牛の肉に限って輸入を認めており、米国は制限撤廃を求めている。
 もう一つは世界貿易機関(WTO)の協定で決まっている「ミニマムアクセス(MA)米」の動向だ。農薬などに汚染された「事故米」問題を受けてMA米の輸入を停止中で、七日に入札を再開する見通し。日本は米国産を含め七十七万トンを輸入する必要があり、農水省筋は「次期政権が確実な実行を求めてくるかもしれない」と語る。

 ■WTO交渉進展は期待薄 WTOドーハ・ラウンド(多角的通商交渉)の早期進展は望み薄だ。みずほ総合研究所の菅原淳一氏は「景気対策などに追われるうえ、民主党が主導する議会のハードルは高い」とみている。
 日本にとってはアジア太平洋地域の自由貿易協定(FTA)が焦点。米通商代表部(USTR)はシンガポールやニュージーランドなど環太平洋四カ国が進めているFTA交渉に全分野で参加する方針を表明した。
 この構想は将来のアジア太平洋FTAの布石といわれ、外務省筋は「方針は継承される」と予測する。日本は米国抜きで東アジア十六カ国の包括的経済連携協定(EPA)構想を進めてきたが、その練り直しを迫られる可能性がある。


------------------------------------------------------------


オバマ氏勝利宣言、「我々が合衆国だ」、支持者10万人唱和。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 「Yes we can」(そうだ、我々はできる)――。米国の若き新リーダーの連呼が夜空に響きわたった。オバマ次期米大統領(47)は地元シカゴ市で四日夜(日本時間五日午後)、高らかに勝利宣言。「我々は集合ではない。アメリカ合衆国なのだ」。団結を呼び掛ける演説に支持者は喜びを爆発させ、ほおをぬらしながら歴史的な瞬間を胸に刻む人々もいた。危機の影が世界を覆う中、日本の同世代の識者らも新鮮に受け止めた。(1面参照)

 【シカゴ=毛利靖子】米国史上初の黒人大統領になることが決まったオバマ氏の地元シカゴ市には十万人を超える支持者が集まった。
 オバマ氏がミシェル夫人、二人の娘と手をつなぎながら演壇に上ったのは四日午後十一時(日本時間五日午後二時)前。広大な会場に歓声がこだました。
 「きょう黒人も白人もヒスパニックも、我々米国人は世界にメッセージを発した」と述べたうえで、その名を全国区の人気に押し上げた有名な一節を繰り返す。「我々は単なる赤い州(共和党)と青い州(民主党)の集合ではなく、今でも、そしていつでもアメリカ合衆国なのだ」。支持者も声を合わせた。
 おなじみのスローガンとなった「Yes we can」は六回にわたって連呼。会場の一体感は一層強まった。
 共和党の支持者にも、「みなさんの力を必要としています。私はみなさんの大統領にもなるつもりです」と呼び掛けた。
 演説が終わると、会場は一瞬、沈黙に包まれた。人々がぽろぽろと涙を流しながら抱き合っていたのだ。市内の不動産会社に勤めるマリー・ジョー・レイスさん(45)は「イラク戦争で人々は分断の度合いを深めた。でも、まだ頑張れるのではないかと元気が出てきた」。
 隣に立つ友人の黒人女性は「日々の生活で人種問題の壁に直面してきたが、演説に癒やされた」と話した。
 一方で「変革をうたうのと、実際に問題を解決できるのとは別だ」と厳しい声も。不動産管理業者(54)は「理想と現実の差に落胆し、我慢を強いられることもあるかもしれない」。金融危機への対応などで、厳しい現実を味わうことを覚悟しているようだった。
 この日オバマ氏が登壇した半円形の低い舞台の周囲には二十六本の星条旗が並び、公園の向かい側に立つ高層ビルの壁面には、窓の明かりを利用して「USA」の文字が夜空に浮かび上がった。
 米大統領選でオバマ氏が勝利したことを受け、拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表(70)は五日、「残る制裁を解除しないよう要請を続ける」とする一方、「日本を支援してくれるのか」と懸念も口にした。
 同日午後、東京都内で記者会見に応じた飯塚代表は「これまでブッシュ大統領と話してきたので、民主党のオバマ氏に代わって、どれだけ日本を支援してくれるのか心配」と話した。
 米国文化に詳しい巽孝之・慶応大教授の話 黒人初というよりも人種的対立を感じさせない大統領の誕生という意味で、オバマ氏の当選は画期的だ。生い立ちからして欧州、アフリカ、アジアなどとの連帯を意識させるオバマ氏は、地球規模で様々な問題に取り組めるのではないか。ブッシュ政権下の米国社会には自由にものを言いにくい雰囲気があったが、今後はこうした雰囲気から解放されると思う。


マケイン氏、「オバマ氏を全力支援」。
 【アリゾナ州フェニックス=中前博之】「オバマ氏を全力で支援していくと誓う」。四日夜、地元アリゾナ州フェニックスで演説に立った共和党のマケイン上院議員(72)は潔く敗北を認め、激戦を繰り広げたライバルをたたえた。
 同氏は毅然(きぜん)とした表情で「私の支援者には、結束して(民主党との)妥協点を探す努力を惜しまないよう要請する」と訴えかけた。「アフリカ系アメリカ人にとって特別な意義がある」と初の黒人大統領誕生を称賛。すべての人に成功の機会が与えられる米国の素晴らしさを強調した。



米国社会と変革(上)「誰でも成功できる」―崩れる人種の壁、若い世代に勇気。
2008/11/06, 日本経済新聞 朝刊

 ケニア出身の黒人の父と米カンザス州出身の白人の母を持つバラク・オバマ氏が、圧勝で大統領の座を射止めた。スローガンの「変革」を自ら体現して見せたオバマ氏が米国民に与える影響は計り知れない。黒人やヒスパニック系など多様な米国社会の底流にも変化の兆しが見え始めている。
 米北東部ボストン郊外のハーバード大学ロースクール。大統領選の直前、重厚な建物が並ぶキャンパスの一角に黒人の学生たちが集まった。同校卒業生で米国初の黒人大統領に当選したオバマ上院議員がかつて所属した、ハーバード黒人法律学生協会(HBLSA)の面々だ。
 「黒人が大統領になること自体、歴史的な大変化。国民に巨大な心理的影響があるはずだ」。二年生のダレル・ベネット氏(23)はオバマ氏の偉業を興奮気味に語った。東部メリーランド州ボルティモアの貧しい地域で育ったが奨学金を得て超難関を突破。外交官を志すベネット氏は「もちろん、自分もやればもっとできるという気持ちになる」と歓迎する。
 オバマ氏の快進撃は、すでに黒人に対する「期待値」を上げつつある。米紙ニューヨーク・タイムズなどが十月下旬に行った世論調査によると、「白人と黒人が社会で成功する機会は均等だ」という回答がほぼ三分の二に達し、七月調査時点の半数から急上昇した。
 同ロースクールの学生のうち、黒人は約一〇%。米国の全人口に占める割合(一三・五%)には届かないが、オバマ氏が入学した約二十年前から約一ポイント上昇。ヒスパニック系やアジア系学生も増加しており、白人の比率は同期間に七一%から四五%に低下した。人口構成の変化を背景に「エリートの構成」にも変化が表れてきている。
熱狂に戸惑いも
 ただ即席の「オバマ効果」による期待値上昇には、後輩たちも戸惑いを隠さない。肌の色が黒いことが成功の妨げになるとの意識は若い世代にも依然根強い。中米からの移民を両親に持つ三年生のクラウディオ・シンプキンス氏(23)は「母から『黒人は人の二倍勉強しないと白人と同等に評価されない』とよく言われた」と振り返る。
 ビジネス界への黒人の進出はさらに遅れ気味。ビジネスキャリア形成を支援する非営利団体「マネジメント・リーダーシップ・フォー・トゥモロー」によると、ビジネススクールの黒人は学生の六―七%にとどまる。団体創設者のジョン・ライス氏は「差別を受けた黒人社会では資格が得られて地元で働ける弁護士や医師を志す傾向が伝統的に強かった。その子どもたちの世代は身近にモデルがおらずビジネスに目が向きにくい」と推測する。
 同団体は金融機関や会計事務所などで成功した黒人やヒスパニック系の先輩が若者にアドバイスする。黒人とヒスパニック系の両親を持つジミー・バルデス氏(25)は大学時代にプログラムに参加。銀行大手JPモルガンに勤務後、ビジネススクールを目指す同氏は「地元の黒人社会にとどまっていては、成功への手掛かりを見つけにくい」と語る。
 「エリート中のエリート」であるオバマ氏の成功体験が広く黒人層に共有されるには、なお時間がかかりそうだ。(米マサチューセッツ州ボストン郊外で、中前博之)
posted by 原始人 at 13:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 主要記事 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/109174872
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック