2013年01月17日

水野和夫  デフレからの脱却は無理なのです


http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130116/242345/?ST=print
水野和夫・埼玉大学大学院客員教授に聞く  2013年1月17日(木)  渡辺 康仁

デフレからの脱却は無理なのです

 デフレからの脱却はできない――。金融緩和、財政政策、成長戦略の「3本の矢」で脱デフレを目指す「アベノミクス」が始動しても、その思いが揺らぐことはない。
政権交代で政府を離れた水野和夫・埼玉大学大学院客員教授が見る日本経済が抱える問題の本質とは何か。(聞き手は渡辺康仁)


国内外の経済の状況をどう見ていますか。

水野:まず先進国の状況からお話しします。
2008年のリーマンショックに続いてユーロ圏諸国のソブリン(政府債務)問題が起こり、米欧各国は後遺症からいまだに抜け出せていません。日本がバブル崩壊後の「失われた20年」で抱えた問題を解決できないのと同じような状況に置かれています。


 日米欧でバブル経済が発生した原因ははっきりしています。それは成長ができなくなったからです。
日本は戦後の高度成長期が1973〜74年頃に終わり、4〜5%の中期成長に入りました。その後、80年代に入って成長率はさらに落ち込み、それを覆い隠すようにバブル経済が起きました。

 成長が難しくなった米国も、1995年以降、強いドル政策でバブルを起こしました。金融技術や証券化商品がそれに乗っかる形で2007〜08年にピークを迎えたのです。
欧州でも、特にドイツが成長できなくなったためにユーロという大きな枠組みを作って南欧諸国を取り込みました。国別で一番ポルシェが売れていたのはギリシャだそうです。強いユーロでポルシェを買ってバブル化していったのです。

 日米欧ともに成長ができなくなったからバブルに依存し、いずれも崩壊したのです。
バブル崩壊の過程でデフレも起きました。
私には成長戦略でバブルの後遺症から脱却しようというのは堂々巡りのように思えます。

−−−歴代の政権は成長戦略を経済政策の柱としてきましたが、それは間違っていたということですか。

水野:成長戦略は失敗の運命にあると言えます。
菅直人・元首相については様々な評価がありますが、首相時代の発言で一番良いと思うのは「成長戦略は十数本作ったが全部失敗している」というものです。
成長戦略が解決策として正しいのであれば、十数本のうちどれかは当たっていないとおかしいのです。ことごとく外れているということは、成長では解決できない事態に先進国は直面していると考えたほうがいいのだろうと思います。


「製造業復活」は理解できない

 先進国が成長できなくなったのには理由があります。
デフレ経済のもとで、数字で成長を計る場合には名目GDP(国内総生産)を使います。
名目GDPを簡単に言うと、売り上げから中間投入を引いた付加価値です。

 今起きている事態は売り上げが落ちているということではありません。
売り上げが減少したのは、失われた20年の最初の10年です。あの当時は信用収縮も起きて単価がどんどん下がりました。
現在は企業の売り上げが伸びる一方で、中間投入がそれと同額か場合によっては上回るテンポで増えている。売り上げが増加しても名目GDPは増えないという構図です。
中間投入が増えているということは、逆に言えば資源国の売り上げが増えているということです。

 売り上げが伸びていると言いましたが、先進国の企業が思い通りに値上げができる状況にはありません。
日本からの輸出でウエイトが高い電機や自動車は競争が激しく、新興国市場などで値上げすることは厳しいでしょう。先進国は工業製品を作るだけでは付加価値を増やすことは難しくなってしまいました。

−−−日本経済を再生させるためには、製造業の役割が重要になるのではないですか。

水野:製造業の復活と言う人がいますが、私にはなかなか理解できないですね。
日本で作って海外に持っていくのは、今の仕組みからするとほとんど成り立たないと思います。家電メーカーの現状がそれを物語っています。自動車も10年後には同じ状況になる可能性があります。
新興国が近代化に成功するには、雇用を自国で増やして中間層を生み出すことが必要ですから、新興国は現地生産化を求めると思います。

 国内を見ても、身の回りにはモノがあふれています。乗用車の普及率は80%を超え、カラーテレビはほぼ100%です。
財よりもサービスが伸びると言われますが、サービスは在庫を持てないし、消費量は時間に比例します。1日が24時間と決まっている以上、サービスを受け入れる能力には限りがあります。先進国は財もサービスも基本的には十分満たされているのです。

 個人だけでなく、国全体の資本ストックも過剰です。既に過剰なのに、まだ新幹線や第2東名高速を作ると言っている。資本ストックの減価償却にどんどんお金を使うというのが今起きていることです。


経済的にゼロ成長で十分

−−−企業が稼げなくなると、賃金や雇用にしわ寄せが行きそうです。

水野:戦後最長の景気回復期だった2002年から2008年初めに何が起きたのでしょうか。
製造業の付加価値はプラスでしたが、企業利益と雇用者報酬、減価償却に分けると、減価償却は付加価値よりも増えました。1200兆円の民間ストックを維持するために過大償却になっていたのです。
景気は回復しているのに企業利益と雇用者報酬を合算するとマイナスになる。利益を減らすと株主総会を乗り切れませんから、雇用者報酬が引かれます。1人当たり人件費はどんどん下がります。

 世界経済が回復すると工場の稼働率も上がるから株主配当を増やさなければなりません。
雇用者を非正規化しながらトータルの人件費を下げるのが景気回復の実態です。
次の景気回復が来ても、この状況は変わらないでしょう。

 繰り返しますが、あらゆるものが過剰になっているのです。
本来ならば、望ましい段階に到達したはずです。
国連の統計では、1人当たりのストックでは日本は米国を上回ります。
さらに成長しようというのは、身の回りのストックをもっと増やそうということです。
まだ資本ストックが足りない国から見ると、1000兆円もの借金を作って色々なモノをあふれさせた日本が成長しないと豊かになれないというのはどういうことかと思いますよね。

−−−何か答えはあるのでしょうか。

水野:2つ考えられます。
 もし日本が今でも貧しいとするならば、1つの解は近代システムが間違っているということです。ありとあらゆるものを増やしても皆が豊かになれないというのはおかしいですから。

 2つ目の答えは、成長の次の概念をどう提示するかです。
日本は明治維新で近代システムを取り入れて、わずか140年たらずで欧米が400年くらいかけて到達した水準に既に達してしまったということです。
これまで「近代システム=成長」ということでやってきましたが、必ずしも近代システムは普遍的なものではありません。変えていかないといけないのです。

 私は経済的にはゼロ成長で十分だと思います。
よく経営者は「成長戦略は実行あるのみ」という言い方をしますが、近代システムを強化して売り上げが伸びるような仕組みであれば、それでもいいのでしょう。
しかし、売り上げが伸びるのはあくまで海外です。現地で100の売り上げがあったら、50が中間投入で、50が付加価値。付加価値の50のうち、35が現地の雇用になって15が日本に返ってくる。
先進国になった日本が1人当たりGDPで1000ドルや2000ドルの国にぶら下がって豊かになるのは無理なのです。


資本主義は全員を豊かにしない

−−−アジアなど新興国の成長を取り込むことはこれからも重要だと思いますが。

水野:日本の高度成長期には原油が1バレル2ドルや3ドルで買えました。
米欧のオイルメジャーが原油価格を抑えていましたから、売り上げが増えても中間投入は増えません。日本の1960年代から70年代半ばまではすごく条件が恵まれていましたが、オイルショックで壊れました。

 今の新興国は1バレル100ドルで原油を仕入れなければなりません。
近代化の原則は「より速く、より遠く」ですから、エネルギーが必要です。
地球上の70億人のうち、12億人が先進国の仲間入りをして、残り58億人が近代化に向けてこれからエネルギーを多消費します。
しかし、原油高は続いていますから、残りの58億人全員が近代の仕組みの上で豊かになれるわけではないのです。

 アジアやアフリカの各国がドッグイヤーと言われるほど速いテンポで近代化をすると、今の想定通りに本当に中間層が生まれるのでしょうか。
私はそれは難しいと考えています。
資本主義は全員を豊かにする仕組みではないとだんだん分かってくるのが、これからの10年、20年なのでしょう。

 中国もこれから過剰設備の問題が顕在してきます。
世界の粗鋼生産量15億トンのうち、中国が既に7億〜8億トンを占めています。
中国経済が90年代後半から立ち上がった過程は米欧のバブル期と重なります。
米欧が失われた10年、20年に入ると、日本が過剰設備に陥った90年代と同じことが起こりかねません。
たとえアフリカ経済が成長しても、5兆ドル規模の中国経済を牽引することはできません。
中国の成長が難しくなれば、日本も外需に期待することはできなくなります。

−−−デフレからの脱却も難しくなりますね。

水野:デフレからは脱却できないでしょう。
そもそも成長できなくなったという前提でどうするかを考えなければいけないのです。

 日銀の金融緩和への期待で円安が進んでいますが、2000年代初頭に量的緩和で1ドル=120円程度まで円安が進行したことがありました。
経営者は120円が続くという前提で国内に工場を作りましたが、今度は70円台の円高になってしまった。
経営者の失敗なのに、最近になると六重苦といって円高のせいにしていますよね。
今の状況も「円安バブル」を生じさせる恐れがあると見ています。


水野和夫(みずの・かずお)氏
埼玉大学大学院客員教授。1953年生まれ。1980年早稲田大学大学院経済学修士。
八千代証券に入り、その後は一貫して調査部門に所属。合併などで会社は国際証券、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に変わった。
2010年9月に退職し、民主党政権で内閣府の官房審議官(経済財政分析担当)に転じた。
国家戦略室担当の内閣審議官も務めたが、政権交代で退いた。

posted by 原始人 at 17:08| Comment(0) | TrackBack(0) | News & Markets | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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