2007年06月04日

ロシア大統領会見、「北方領土解決は困難」、中距離核、再開発を示唆。

2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊
 【モスクワ=太田泰彦】ロシアのプーチン大統領はモスクワ郊外の大統領別荘で日本経済新聞などと会見し、北方領土問題について「解決策を見いだすのは難しい状況だ」と言明した。六日からの主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で予定する日ロ首脳会談で、厳しい姿勢を示すとみられる。米国が欧州で進めるミサイル防衛網の配備では「世界が軍拡競争に直面する」と非難。対抗手段として、全廃した中距離核兵器を再び開発する可能性を示唆した。
(北方領土は3面「きょうのことば」参照)=関連記事6、7面に

 大統領の二期目の任期は来年五月に切れるが、「一期四年では短い。五年か六年あるいは七年が妥当」と述べた。国内で続投説が消えない中、大統領が初めて自ら続投の可能性に言及したと受け止められそうだ。
 大統領はサミットを前に主要八カ国(G8)の報道機関と約三時間、ロシアの外交、内政について語った。強権的な手法に対する欧米の批判をかわし、国際協調の姿勢を印象づける狙いとみられる。
 日本の北方領土問題では「解決を急ぐ日本側の意思は理解する」とした上で、「四島の帰属性がロシア側にある点に議論の余地はない」と強調した。平和条約締結後の二島引き渡しを定めた一九五六年の日ソ共同宣言に言及し、「(二島引き渡しを)拒否したのは日本側だ」と指摘。交渉が暗礁に乗り上げたのは日本側の事情だと批判した。
 同時に「以前より協議が実務的になってきたのはよいことだ」と述べ、解決策を探るための協議を続けることを確認。ただ「(領土問題など)大きな案件は特定の時期に結びつけて考える必要はない」とも強調、大統領の任期中の決着は想定していないことをうかがわせた。
 日本政府が検討している安倍首相の公式訪ロについて「首相の来訪は歓迎する」と述べた。
 対米関係では「対話重視」を強調しながらも、軍事面を含めて強い対抗姿勢を打ち出した。特に米国のミサイル防衛網が欧州に配備されれば、米ロの核戦力のバランスが崩れるとして「初めて欧州で米国の核戦力が実質的に増強されることを意味する」との認識を繰り返した。
 大統領は米国の姿勢が「国際的な安全保障の基礎を揺るがす」として、計画中止を強く要求していく構えで、サミットを控え、米ロ間の緊張が一段と高まってきた。
 東アジア各国との経済連携にも言及、人口減少に悩むロシア極東地域の開発のためにも「アジアと多角的に地域経済に関与したい」と指摘。太平洋岸への石油パイプライン計画のほかに、ロシア極東地域と中国向けに天然ガスのパイプライン建設を計画中であることを明らかにした。
 会見には米ウォールストリート・ジャーナル、英タイムズ紙などG8各国の主要報道機関一社ずつが参加した。

○北方領土問題で解決策を見いだすのは難しい状況だ
○安倍晋三首相の公式訪問を歓迎
○カニの輸出は止めない。禁止したのは密漁・密輸
○中・東欧諸国へのミサイル防衛システム配備は一方的な軍拡だ。対抗する手段を開発せざるを得ない
○サハリン2の生産分与協定(PSA)は植民地支配的な内容だ
○ロシア大統領の任期の一期四年は短い。五―七年が妥当

北方領土(きょうのことば)
▽…終戦直後に旧ソ連が占領した択捉、国後、色丹の各島と歯舞群島の総称。4島の帰属問題が日本とロシアの間で最大の懸案となっている。1956年の日ソ共同宣言では平和条約の締結後、歯舞群島と色丹島を引き渡すと明記した。
▽…93年のエリツィン大統領訪日時には「北方4島の帰属問題を解決して平和条約を早期に締結する」との東京宣言を発表した。だが4島返還を求める日本と、2島引き渡しで決着したい意向を示唆していたロシアの交渉はその後も平行線をたどっている。


ロシア外相が北方領土訪問、首脳会談前にけん制。
2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊
 【モスクワ=古川英治】ロシアのラブロフ外相は三日、北方領土の国後島、色丹島、歯舞諸島を相次ぎ訪問した。ロシア外相の北方領土訪問は初めて。安倍晋三首相とプーチン大統領は六日からドイツで開く主要国首脳会議に合わせて会談する予定で、領土返還を求める日本をけん制した。
 現地からの報道によると、ラブロフ外相はモスクワからサハリン州ユジノサハリンスクに入った後、ヘリコプターなどで各地を訪問した。



プーチン大統領会見――強硬発言、米の譲歩狙う、「核の照準、欧州に」。
2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊

 【モスクワ=坂井光】ロシアのプーチン大統領が会見で中距離核兵器を再び開発する可能性に初めて言及し、米国のミサイル防衛(MD)網の中・東欧配備を巡る米国との対立が一段と先鋭化してきた。ただ、膨大な資金が必要となるだけに「軍拡競争には反対」とも強調した大統領の言葉は本音といえそうだ。一連の強硬発言は今後相次いで開く米ロ首脳会談で何らかの譲歩を引き出すのが狙いとみられる。(1面参照)

 プーチン大統領は会見でMD配備計画について「米国はイランに対抗するものと説明しているが、イランにそのようなミサイルはない。逆にロシアはウラル山脈以西の地域で影響を受ける」と述べ、米ロの核戦力バランスがロシアに不利となることを強調した。このため「MD配備への対抗手段を開発せざるを得ない」と指摘。その結果、軍拡競争となっても「ロシアの責任ではない」と米国をけん制した。
 同時に大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核の照準が欧州に向いていたソ連のような時代に戻っているのか、という質問に「その通りだ」と答えるなど、米国をけん制するカードを相次いで繰り出した。
 大統領は四月の年次教書演説で冷戦末期に東西の通常兵器の保有上限を決めた欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時停止することを表明したばかり。中距離核の再開発や照準に関する今回の発言は、核軍縮と欧州・ロシア安保協力の流れに大きく逆行するだけに、現実になれば国際社会への影響はより深刻だ。
 プーチン政権では大統領がいた旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者が大勢を占めており、これがエネルギー産業での外資排除やメディア支配、反政府勢力への弾圧など強硬路線を後押ししている。このため一方的なMD配備に対する米国への不快感は政権内に広がっている。
 米ロは主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)時に加えて七月にも首脳会談を開く。プーチン大統領としては会談を前に強硬発言することで大国としての威信を内外に示すとともに、北大西洋条約機構(NATO)拡大やエネルギー安全保障問題、ロシアの民主化問題などを巡って米国の譲歩を引き出す戦略との見方が根強い。

冗舌の裏に自信と不安、外国に批判の矛先。

 「スシは私も好物ですよ。でもカニよりマグロがいい」。プーチン大統領は時に冗談を交えながら、三時間以上も冗舌に語り続けた。笑いながら親しげに記者の腕をつかむ場面もあった。
 質問者を射すくめるような鋭い目。数字にも強い。メモは一切見ず、経済成長率や相手国別の対内投資額が次々と口をついて出る。厳しい質問にも、一瞬も言葉に詰まることはない。
 表情は豊かではないが、話題によって微妙に顔つきが変わる。国内の貧困層の減少や外貨準備の拡大など、国内の経済大国ぶりを語る口調は堂々として視線も落ちついている。だが、メディア規制や人権問題になると、批判の矛先を外国に向け「ロシアだけではない」と、やや早口になる。周囲に同意を求めるように目や手が不安げに動く。
 顔を赤らめ感情をあらわにしたのは、米国について語った時だ。「ナンセンス」「危険」「無責任」など容赦なく激しい表現を連発。並々ならぬ対抗意識が伝わってきた。この政治家の自信を支えるのは「大国ロシア」の復活を喜ぶ国民の人気だ。ただ、経済発展を強調する強力な指導者に頼る国民感情に、ロシアの弱点が透けて見えた。(編集委員 太田泰彦)

「任期5―7年が妥当」。

 【モスクワ=坂井光】「一期は五年か六年あるいは七年が妥当」。プーチン大統領は来年五月に二期目の任期が切れることに関して「一期四年では短い」と言明した。
 大統領は理由として「大統領としての仕事に慣れるまでに二年くらいかかる」と述べた。さらに、憲法で任期を四年としたのは「米国をまねたもの」と指摘し、憲法改正で任期延長することに前向きな考えを示した。「任期の回数については制限すべきだ」と述べ、現在連続二期までの任期を増やすことには否定的な立場を示した。
 任期後の処遇を問われた大統領は「今年末から来年初めの政治情勢を見て判断する」と述べた。大統領はこれまで繰り返し続投を否定、自ら後継者を指名する考えを表明していた。今回の発言では、プーチン大統領自身について言っているかははっきりしないが、メディアに強い影響力を持つ政権側が続投に向け、本格的に世論を形成する可能性が出てきた。一方、欧米諸国では独裁色を強めるプーチン政権を懸念する声が広がりそうだ。

北方領土交渉不透明に、ロシア実効支配誇示。

 プーチン大統領が北方領土問題の早期決着に否定的な見方を示したことで、日本政府の交渉戦略は修正を余儀なくされる。六日からの主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で予定する日ロ首脳会談を前に、領土問題の進展を期待する日本側と、日本から経済協力を引き出したいロシア側との駆け引きは激しくなっている。
 日本政府は任期が切れた後も影響力を維持するとみられるプーチン大統領の「院政」をにらみ「任期中に解決に向けた言質を引き出したい」(外務省幹部)としていた。今年相次いで開いた首相会談や外相会談では経済協力を重視。「幅広い協力が結果的に領土問題の解決を早める」(麻生太郎外相)というのが基本方針だったが、今回のプーチン発言で解決のメドは一層不透明になった。
 ロシア側は「領土問題の解決でロシアにどんなメリットがあるのかが見えない限り、交渉は前に進めない」(ロシア外交筋)と見ている。三日にはロシアのラブロフ外相がロシア外相として初めて北方領土を訪問。実効支配を誇示して日本を揺さぶる思惑がありそうだ。
 外務省幹部はロシアが近年の経済発展を背景に「交渉は年々強気になってきている」と漏らす。日本が強みとする原子力や石油精製などの分野での技術協力を誘い水に、ロシア側の妥協を引き出したい考え。だが与党内には「経済協力を進めることが領土問題解決を保証するものになっていない」(自民党若手)と否定的な見方も広がり始めている。

「カニの輸出続ける」、禁止対象は密漁・密輸。

 【モスクワ=坂井光】「カニの輸出は続ける」。プーチン大統領は農業省が五月三十日に生きたカニの輸出禁止を発表したことについてこう言明し、「禁止したのは密漁・密輸だ」と語った。最大の輸入国である日本にとって禁輸措置の影響は大きくすでに店頭価格が上昇していただけに大統領の否定発言でこれ以上の混乱は避けられる見通しとなった。
 大統領は密漁・密輸を取り締まるのには「日本の協力が欠かせない」と強調、ハイリゲンダム・サミットの際に開く日ロ首脳会談でテーマとして取り上げる考えを明らかにした。ロシアは水産物を含む資源を囲い込み、価格交渉などを有利に進める動きを強めているだけに、カニ輸出に対して規制を課す可能性もある。


プーチン大統領発言要旨。2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊

 【北方領土】我々は解決策を探っているし、今後も探っていく。
ただ、四島がロシアに帰属することは議論の余地はない。これは第二次世界大戦の結果だ。
しかし、日本側が過去の問題を取り除きたいと思っていることはよく理解している。
 一九五六年の日ソ共同宣言でソ連は(平和条約締結後に歯舞諸島と色丹島を引き渡し)二島ずつとする極めて高い柔軟性を発揮した。これは両国議会が批准した有効な文書にもかかわらず、その後日本が(受け入れを)拒否した。このような状況で次の解決策を探るのは難しい。
ただ、次の首脳会談では安倍晋三首相とこの問題を協議することを期待している。安倍首相がロシア公式訪問を望めば歓迎する。

 【カニ輸出】輸出は止めない。禁止したのは密漁・密輸だ。日本との協力に期待するが、今のところそれはない。日本にロシアから持ち込まれる水産物と輸入統計に出る数字には大きな差がある。ロシアの問題でもあるが、日本との協力なしには解決しない。安倍首相との会談で協議する。

 【対東アジア】急速に発展している東アジアとの経済関係強化には関心がある。ロシアは東アジア地域の一員として、エネルギーだけでなく先端技術でも協力し合いたい。ロシア極東地域の発展につながると考えている。石油では太平洋までパイプラインを建設している。ガスでも極東地域と中国向けに敷設する計画を検討している。東アジアとは軍事面を含めて多角的に協力を発展させたい。

 【ミサイル防衛(MD)網配備】欧州通常戦力(CFE)条約の結果、ロシアはウラル山脈以西から大型兵器を撤退させ、兵力を三十万人削減した。一方、ブルガリア、ルーマニアでは新たな基地ができ、今回チェコとポーランドにMD設備が配備される。ロシアは一方的な軍拡に懸念を示さざるを得ない。
 MDは米国の核の潜在力の一環として機能することになる。国際的な安保体制を揺るがす。私は米国が最終的にあきらめる可能性を排除しない。米国の常識に期待している。さもなければ、その結果起きることはロシアの責任ではない。ロシアの世論は国の安保が揺るがないことを求めている。何ができるのか考えないといけない。米ロのみが中距離核を配備できないのは理解できない。

 【エネルギー開発】サハリン2の生産分与協定(PSA)は植民地支配的な内容だ。ロシアは長い間、ただで資源を利用することを認めてきた。株主(英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事)がルールを守っていたらこの状況を見直す機会は我々になかった。株主が環境を破壊したのでこの状況を改善できた。(ロシアの天然ガス独占企業)ガスプロムが参加したことで日本は契約(液化天然ガスの輸入)を維持することができた。

 【任期問題】二〇〇八年も私は仕事を続ける。家に閉じこもるにはまだ若い。何をするかは今は言えない。いくつかの選択肢があるが、年末から来年初めの政治状況を見て判断する。大統領の任期は四年で連続二期までだが、仏は五年で何期でもできる。米国は四年で二期まで。(多選を)制限するのは正しいが、ロシアで一期四年は短い。五年、六年か七年が妥当だ。
posted by 原始人 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Report | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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