2007年06月04日

(ハイリゲンダムサミット)温暖化対策「数値」で綱引き――共同歩調は確認へ

2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊

 主要国首脳会議(サミット)が六日から三日間の日程で、ドイツ北部の保養地ハイリゲンダムで始まる。議長国ドイツが掲げた「地球温暖化対策」「貿易や投資の自由化」などの議題を主要八カ国(G8)の首脳が話し合う。
最重要テーマとなる温暖化対策では、温暖化ガス削減の新しい枠組みづくりへの共同歩調を確認する見通し。
ただ首脳声明に数値目標を掲げたいとするドイツに米国が反発するなど、各国間の溝の深さも浮かび上がっている。

 サミットは今回で三十三回目となる。これまで原油高や通貨危機、テロ対策などマクロ経済や政治問題を最優先してきた。温暖化対策という環境問題が最重要テーマとして取り上げられるのは異例のことだ。
 背景にあるのは、二〇一二年に温暖化ガスの削減計画が終了する京都議定書後の枠組みづくりに一刻も早く手をつけないと、気候変動への歯止めが利かなくなるとの危機感だ。この百年で世界の平均気温は〇・七度超上昇。二十一世紀に入って、温暖化の影響とみられる大型ハリケーンの発生など異常気象による被害も多発している。

 ●日本は長期目標提案
 温暖化の進行にブレーキをかけようという目標では一致する主要国だが、具体論となると話は別。ブッシュ米大統領は「中国、インドなど巨大な人口を抱える発展途上国抜きの排出削減策は意味がない」と主張。数値目標をサミットの首脳声明に明記したいという議長国ドイツのメルケル首相と対立する。
 ドイツなどが属する欧州連合(EU)は「二〇二〇年にEU全体で温暖化ガスを二割削減する」との中期目標を定める。ただ、日米には「もともと発電などで石炭の利用比率が高い欧州が高い削減目標を立てられるのは当然」との指摘もあり、産業界などは「欧州の言いなりになれば産業空洞化が加速する」(日本経団連)と懸念する。
 安倍晋三首相は「二〇五〇年に世界全体で温暖化ガスを半減させる」との長期目標をサミットで提案する考え。ブッシュ大統領も先月末、〇八年末までに日米欧や中国、インドなどと世界的な削減目標を設ける考えを表明。サミットでは将来を見据えた「首脳らしい」決断力を発揮できるかが最大の注目点だ。

 ●ヘッジファンド議題に
 議長国ドイツが強い意欲を示すのが、資本市場で存在感を増すヘッジファンドへの規制強化。ただファンドの資産内容や取引履歴の開示強化については、各国から「自主ルールの策定を当局が求めるのはおかしい」(尾身幸次財務相)との声もあがっており、賛同を得られるかは不透明だ。
 サミットでは世界貿易や投資の自由化についても議論する。主要国は停滞している世界貿易機関(WTO)多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)を年末までに妥結させることを再確認する見通しだ。世界経済が拡大する中で、途上国支援やエネルギー、知的所有権など課題は山積み。利害を乗り越えて、どれだけ強いメッセージを打ち出せるか。来年の次回サミットで議長国を務める日本の姿勢も問われている。


海賊版取り締まり強化、声明盛り込みへ、法的枠組み創設

 六日から開かれる主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で、模倣品・海賊版の水際での取り締まり強化に向けた法的枠組みの創設が、声明に盛り込まれる見通しとなった。税関の業務について各国共通のガイドラインを策定。模倣品・海賊版の広がりを防ぐ条約づくりを検討する。
 主要国は今回のサミットで、世界経済の課題について中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコの新興市場五カ国と新たな対話の枠組みをつくることで一致する見通し。その関連で知的財産権の保護に向けた制度づくりや人材育成の支援を主要国として表明する。
 主要国間でも模倣品や海賊版の取り締まり方法を情報交換し、望ましい枠組みを検討する。
 知財保護の枠組みとしては世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が権利保護の最低基準を定め、加盟国に守るよう義務付けている。ただ取り締まり方法などは各国政府に任されており、途上国などでは体制が不十分な国が多い。適切な水際対策のため、新たな取り締まりの基準づくりに乗り出す。
 日本は二〇〇五年のサミットで、模倣品・海賊版防止のための法的枠組みをつくることを提唱。このほどまとめた政府の知的財産推進計画でも、模倣品・海賊版拡散防止条約の早期実現を目指す考えを盛り込んだ。

▼主要国首脳会議
 一九七五年にフランスのランブイエで発足。現在は日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシアの八カ国の首脳と欧州連合(EU)の委員長が参加し、政治・経済など様々なテーマを討議する。ロシアは二〇〇三年から正式メンバーとなった。今回は中印など新興国が招待国として参加する。来年は日本が議長国となり、北海道の洞爺湖町で開く。



世代交代期のサミット、信頼関係の継承、首相に課題、「洞爺湖」へ存在感示せるか。
2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊

 安倍晋三首相は五日に主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット、六日から八日まで)出席などのためドイツ訪問に出発する。
初のサミット参加となり、そろって世代交代期に入った参加国の首脳とどう間合いを計るかが注目される。
年金記録漏れ問題で内閣支持率が低下するなか、首脳同士の個人的な信頼関係を構築し、大きな外交舞台で存在感を発揮できるかどうかは今後の外交戦略を左右するだけでなく、自身の求心力の行方にもつながりそうだ。

 首相は一月の欧州訪問でサミット参加メンバーのうち、ブレア英首相、メルケル・ドイツ首相、サルコジ・フランス大統領と初顔合わせを終えた。その後、四月に訪米し、ブッシュ大統領と同盟の強化を確認。大国が一堂に会するサミットは、国際舞台で「安倍外交」を展開していくうえで格好の足場となり得る。
 サミットは時に通訳や事務方を交えず首脳だけで突っ込んだ議論が繰り広げられる。「そこで存在感を印象づけると相手の見る目が変わってくる」(外務省幹部)。三年前のシーアイランド・サミットでは、小泉純一郎首相(当時)が首脳間の非公式懇談をリードし、各国首脳との関係強化に結びつけたとされる。
 小泉前首相がパートナーに恵まれたのも事実。ブッシュ大統領との蜜月ぶりを軸にできただけでない。当時のシラク仏大統領は大の相撲好きで知られた日本通。プーチン大統領は柔道家で、シュレーダー首相とは二〇〇二年のサッカーのワールドカップ(W杯)決勝戦観戦のため政府専用機に同乗させたことを機にぐっと距離が縮まった。
 各国首脳の顔ぶれはハイリゲンダム・サミットから来年の北海道洞爺湖サミットにかけてがらりと変わる。今年は安倍首相とサルコジ大統領がデビューの場となる一方、ブレア首相とプーチン大統領には花道となる。ブッシュ大統領は来年が最後のサミットだ。
 「五十代前半の世代が世界をリードしている」。ハイリゲンダム・サミットで安倍首相のシェルパ(個人代表)を務める河野雅治外務審議官はこう指摘する。サミット参加八カ国の首脳の平均年齢は五十四歳。メルケル首相やサルコジ大統領と同じ五十二歳の安倍首相は来年のサミットが日本で開催されることも追い風となり、指導力を発揮できるチャンスが広がっているという。
 半面、指導者の交代は国の政策が内向きに傾きがちになるリスクもはらむ。求心力低下が指摘されるブッシュ大統領や、次々と新指導者が登場する欧州各国との国益をかけた付き合い方に首相が腐心する場面もありそうだ。
 サミット前の最後の週末となった二、三両日、首相は琵琶湖と多摩川に足を運び、環境問題への取り組みをアピールした。来年の洞爺湖サミットでも「環境」が主要テーマになるのは確実。今回のサミットで果たす首相の役割は極めて大きい。



(社説)環境と経済を考える―首脳外交が解く地球環境政治のもつれ
2007/06/04, 日本経済新聞 朝刊

 地球温暖化の防止に向けて、温暖化ガスの排出削減目標を欧州連合(EU)の首脳会議、日本の安倍晋三首相はそれぞれ公表した。今度は、環境問題に消極的とされてきた米国のブッシュ大統領までもが、温暖化防止の目標設定を提案した。方向性も手段も、日米欧の違いは大きい。が、世界を巻き込んだ温暖化防止の新たな枠組みづくりが、国際政治の喫緊の課題だという点では一致する。

米国は転進し始めた

 今週、ドイツのハイリゲンダムで開く主要国首脳会議(G8サミット)では、新たな枠組みを目指す共通の認識が具体的な宣言として結実するかどうかが最大の焦点となる。国益に反する、経済活動を阻害する、として、温暖化対策に背を向けてきた米ブッシュ政権も、温暖化問題への対応を徐々に変えてきている。
 きっかけは二年前に英国・グレンイーグルズで開いたG8サミット。ブレア英首相は各国の科学アカデミー総裁らを招き、首脳会談の中で地球の温暖化が科学的に証明された現在進行形の危機であることを、ブッシュ大統領にも認めさせた。それまで米政権は二酸化炭素(CO2)などによって地球は温暖化しないとし、全米科学アカデミーから、科学者の論文をねじ曲げて引用してはいけないと叱(しか)られていた。
 温暖化を科学的事実として受け入れたことで、米政府の対応はすぐに形を変え始めた。国家エネルギー戦略では省エネやバイオガソリンの普及を掲げた。今回のブッシュ提案では、京都議定書を離脱した理由の一つだった「数値目標」を、設定すべきだと主張を変えた。この数値目標はEUが提示した総量削減の目標とは違うと米政府高官は説明しているが、政策のニュアンスがこれまでと大きく変わったことは明らかだ。
 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の加盟国会議などでは、削減義務を真っ向から否定する中国と、途上国という枠で中国やインドが義務を負わない制度に背を向ける米国とが対立し、身動きがとれない状態が続いていた。そこに風穴を開けたのが、ブレア英首相らのサミットを舞台にした首脳外交だった。
 今回のハイリゲンダム・サミットで議長を務めるメルケル独首相は、中国、インド、ブラジル、南アフリカ共和国、メキシコの五カ国も招き、排出抑制のための合意を得ることに並々ならぬ熱意を見せている。ブッシュ提案も、メルケル独首相からの事前の強い働きかけを受けて出されたと解釈すべきだろう。
 今回のサミットで具体的な削減目標が宣言文に盛り込まれるかどうかはわからないが、米政権の転進ぶりと、いつまでも途上国代表のポジションにはいられないという中国の自覚を見極める機会ではある。
 再来年一月に発足する米国の次期政権が、具体的に排出削減に踏み込んでくるのはほぼ確実だ。現在、米上院にかかっている温暖化関連の法案は、みな具体的な削減目標、二〇〇〇年比五〇%減などの数値目標を明記している。米国の大統領候補の顔ぶれが事実上決まる来年七月に開く北海道洞爺湖サミットが、環境首脳外交の正念場になる。その布石をハイリゲンダムでどう打てるか。日本の環境外交の真価が問われる。
 二〇五〇年に世界で半減という目標と、柔軟で多様な対応という日本案は、米国と中国を巻き込む可能性があると日本政府は自画自賛しているが、足して二で割る折衷案が評価されるとは限らない。

日本の覚悟を世界に

 首脳外交と並行して、UNFCCCの場で、京都議定書の次の枠組みを巡る議論が始まる。こうした枠組み交渉は、軍縮交渉とよく似ているといわれる。すぐれて技術的でありながら、高度に政治的で、検証や評価などを含めて、何よりも実効が重視される。日本は二〇五〇年までの長期目標というざっくりした案を示してはいるが、京都議定書の次、二〇一三年以降の行動計画について具体策は何も提案していない。
 実効ある枠組みをつくるための戦略目標をこれから明らかにしなければならない。政府は一日に閣議決定した「二十一世紀環境立国戦略」を柱に、自然との共生や、循環型社会の推進、途上国支援など総合的な戦略を実行に移すとしている。日本は何をなすのか。相応の覚悟を示さずに、外交交渉はリードできない。
 連邦政府が政策の大転換に二の足を踏んでいるうちに、米国では州政府が排出権取引を可能にする削減義務を相次いで制度化した。日本でも経済と環境を両立させるキャップアンドトレードの実現に政府が消極的なのを見かねて、東京都が排出削減の義務化を打ち出した。日本政府もトップの決断が必要ではないか。
posted by 原始人 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Report | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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