2007年06月10日

(中外時評)中国で激化、政治改革論争―胡錦濤政権は収拾に動く。

 中国で政治改革を巡る論争が再燃している。
秋の共産党第十七回党大会を控え、民主化の加速を求める改革派とこれに強く反対する保守派が文革期さながらの熱い論戦を繰り広げている。
保革両陣営の“挟撃”を受けた形の胡錦濤政権はここへきて事態の収拾に動き始めたが、問題の根が深いだけにそう簡単には沈静化しそうにない。
 中国が改革・開放政策に転じた一九七九年以来、政治改革を巡る論争は何度も繰り返されてきた。しかし今回の問題提起は、中国共産党による武力革命や一党独裁体制の正当性を覆しかねない要素をはらんでいる。
 論争再燃のきっかけは昨秋公表された兪可平・党中央編訳局副局長の一連のメディア向け発言や文章だった。
兪副局長はこの中で「民主は人類がこれまでに発明した政治制度の中で最も良い制度」と民主政治を称揚した。同氏は胡錦濤国家主席の政治ブレーンとも称されるだけに、「胡政権が懸案の政治改革に本格的に取り組む前触れか」との期待が内外で高まった。
 しかし兪副局長はその後、「民主を実現する時期と速度、方法と制度には条件がある」「我々が建設しているのは中国の特色ある民主政治で外国の模倣はしない」などと発言を修正した。民主礼賛のかけ声こそ勇ましかったが、「共産党の独裁体制下で、一歩ずつ民主化を進める」との現政権の方針はなんら変わらなかった。

 これを不満としたか、改革派月刊誌「炎黄春秋」(二月号)が掲載した謝韜・元人民大学副校長の「民主社会主義のみが中国を救える」と題する長文は、マルクス主義の通念を覆す衝撃的な内容となった。
 謝氏は腐敗と分配の不公平にあえぐ中国を救えるのは、共産党政権が「修正主義」と敵視してきた「民主社会主義のみ」と喝破。「晩年のマルクス、エンゲルスは社会主義への平和的移行を提唱する民主社会主義者になっており、民主社会主義こそがマルクス主義の正統な継承である」とまで断じている。
 民主社会主義は暴力革命を否定し、議会制民主主義を通じて社会主義の理想を追求する社会思想で、スウェーデンをはじめとする欧州諸国で発展した。武力革命と共産党独裁を金科玉条とするレーニン主義や毛沢東思想とは水と油の関係にある。
 謝氏の主張を敷衍(ふえん)すれば、中国共産党政権こそマルクス主義の亜流ないし異端であり、すみやかに複数政党制、三権分立の民主主義体制への移行に向けた改革に着手すべきだ、ということになる。

 これには毛沢東思想を信奉し、市場経済化を社会主義の堕落とみなす左翼知識人、官僚らが強烈に反発した。彼らは三月から四月にかけて上海、北京などで謝論文批判の集会を開いたほか、ネット論壇で激しい非難、攻撃を繰り返している。
 「謝韜はいわゆる政治改革を通じて共産党の合法性やマルクス・レーニン主義・毛沢東思想の指導的地位を覆そうとしている」「マルクス主義者と謝韜を代表とする民主社会主義思潮の闘争は、新時代の反ブルジョア自由化闘争だ」等々。文革期を思い起こさせる勇ましい言葉がネット上を闊歩(かっぽ)している。

 共産党の独裁体制に挑戦する謝氏の主張は胡錦濤政権にとっても放置できないし、保革両派の論争がこれ以上激化することは政治の安定を損ないかねない。かといって露骨な言論弾圧は、政治改革を公約した自らをも傷つける。そこで当局は四月後半から事態の収拾、沈静化に向けて動き出した。
 両派のネット上の過激な主張、論戦を規制する一方で、政府メディアを通じ中国独自の政治改革モデルの宣伝を繰り返している。「共産党こそマルクス主義の正統な継承者」であり、一党独裁を堅持しながら改革を進める「中国の特色ある社会主義によってのみ、中国は発展できる」(五月十六日付人民日報紙)というわけだ。
 しかし現実には、胡錦濤政権の政治改革への取り組みは及び腰で、めぼしい成果を上げていないとの評価が一般化しつつある。国民の腐敗や格差への不満は臨界点に近づきつつある。そろそろ小手先の対応はやめて改革に正面から取り組まなければ、共産党政権が国民から見放されることにもなりかねない。

2007/06/10, 日本経済新聞 朝刊
posted by 原始人 at 10:11| Comment(0) | TrackBack(1) | Report | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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