2008年02月03日

消えた3月決戦

田中良紹の「国会探検」   2008.02.03
http://www.the-commons.jp/commons/main/kokkai/2008/02/post_95.html

 「つなぎ法案」を巡る与野党の全面対立は衆参両院議長の斡旋によって収束することになった。ガソリン税を含む予算関連法案の審議について「年度内に一定の結論を得る」という斡旋案は与野党のどちらにも都合よく読める玉虫色であり、年度末の3月にはもう一度大きな山場がやって来るが、しかしもはや解散・総選挙に至るような衝突にはならない。民主党が主張していた3月決戦はなくなったと私は見る。

 そのことを「与党の奇策が民主党の解散戦略を封じ込めた」とか「小沢代表の解散戦略に狂いが出た」とメディアは解説しているが、それは状況を全く理解していない。つなぎ法案という「奇策」が両院議長を駆り出し、斡旋案が民主党の解散戦略を封じ込めたのではない。議長の斡旋によって政府与党の強行策が封じ込められたのである。つなぎ法案を取り下げたことで政府与党は予算関連法案を原案のまま押し通す武器を失った。政府与党は野党の要求を受け入れて修正せざるを得ない武装解除の状態になっているのである。だから野党の方も解散に追い込む事が出来なくなった。

 仮に武装解除されてもなお政府与党が年度末に予算関連法案を原案通りに強行しようとすれば「3月決戦」が突如として息を吹き返し、民主党は総理問責決議案を提出、国会は大混乱して解散・総選挙が現実のものとなる。
果たしてそうなるだろうか。福田総理が「話し合いによって解決するしかない」と何度も強調しているように、斡旋案受け入れは総理が予算関連法案を原案通りに強行せず修正路線に乗るしかないと決断したことを意味している。
そうしなければ解散になってしまう事を福田総理は十分に理解している。

 一方で民主党の小沢代表が斡旋案を受け入れたのは何の不思議もない。
参議院選挙の大勝に浮かれて2008年中の衆議院解散、政権交代を主張していたのは小沢氏以外の民主党の面々である。小沢氏だけは早期解散が必ずしも政権交代にはつながらないと見ていた。むしろ選挙の結果で日本政治がより一層の停滞を招く可能性もある。あるいは政権交代が実現しても極めて不安定な政権しか誕生しない。そのため小沢氏は大連立という別の道を考えた。自民党の懐の中に入り込んであわよくば権力を乗っ取る。それが出来なくとも民主党が十分な準備と訓練をした上での政権奪取に取り組む道である。

 しかし大連立という「奇策」は小児病というか単純思考の日本人に強く反発された。選挙による政権交代しか認めないというのが大勢ならばそれに従うしかない。だから対決路線になった。
そうなると最大の勝負所は誰が考えても予算関連法案の年度内成立阻止である。そこで3月政治決戦のシナリオが書かれたが、小沢氏にとってはそもそも早期解散が政権交代の戦略ではない。出来れば民主党単独で過半数を得られる状態にまで持ち込みたい。3月は一つ目の山であって最後の山ではない。だから斡旋案を受け入れても戦略が狂ったわけでも何でもない。

 全面衝突がいったん回避された事によってこれからは道路を巡る政府与党の原案をどこまで修正するかが焦点となる。
修正するためには与野党双方に存在する道路族を抑え込まなければならない。道路族の後ろには役所と業界という利害関係者がいる。彼らは最後まで修正に反対し、原案を強行するよう体を張って抵抗するだろう。従って政府与党と野党とが国会で仲良く修正協議を行う事は出来ない。
実はこれからこそ国会では与野党対決を強めていく必要がある。そうしないと道路族は納得せず、修正が容易ではなくなる。

 一方で武装解除をした政府与党に対して野党が甘い態度を見せる筈がない。野党は日程をずるずると引き延ばし、予算関連法案の期限が切れる寸前まで法案通過を阻止する。もしかするとガソリン税も下がるが中小企業の支援税制もなくなり輸入品の値段も上がるという情勢になる。国民生活の大混乱が予想される直前まで政府与党が追い込まれる。
そうやってぎりぎりにならないと政府与党と野党との妥協は図れない。最終場面では議長の斡旋によって福田・小沢の党首会談が開かれるかもしれない。そうして初めて修正案がまとまる。これが政治の世界での与野党攻防の通常パターンである。

 さて修正の中身がどうなるかである。
道路を巡る政府与党の主張は今後10年間で59兆円を投入し1万4千キロの道路を作る事が必要だという。その財源として3月で期限の切れる暫定税率を廃止する訳にはいかない。
さらに暫定税率を廃止すれば地方自治体の道路財源が来年度9千億円足りなくなり、1800人を越える地方自治体の全首長が反対署名を政府に寄せて来ているという。
また日本のガソリン税は先進国に比べて高くはなく、欧州では地球環境を守る為にむしろガソリン税を上げる方向で、日本が暫定税率を下げると世界から批判されると説明している。

 この説明がどれほどの説得力を持つかだが、少なくも私は全く説得されない。
最も馬鹿馬鹿しいと思うのがガソリン税と環境との話である。ガソリンの値段を上げると車に乗らなくなるという前提がまず疑わしい。車に乗るのはほとんどが生活の必要からで遊びのためだけではない。ガソリンが値上がりしたからと言って乗らずに済ませる事は出来ない。値段が上がればその分だけ他の消費が削られる。逆に値段が下がればその分が他の消費にまわり車に乗る回数が増える訳でもない。それが生活体験から来る私の実感である。代替交通手段のない地方ならば尚のことそうではないか。

 だから欧州が何を言おうとガソリン税を上げると車に乗らなくなり排気ガスが減って環境にやさしくなるなどという話を信ずる気にはならない。
欧州のガソリン税が高いのは、そもそもが「大きな政府」の国であり、税制の根本思想がわが国とは異なる。消費税率が20%という国々である。だから日本と欧州のガソリン税率を比べても何の意味もない。
「小さな政府」を目指している日本が税制で比べるべき先進国はアメリカだけである。そのアメリカのガソリン税が日本より高いという話を聞いた事がない。
しかも欧州は高いガソリン税を使って道路を建設しているわけではないだろう。
官房長官がパネルまで使って説明したと言うが、これこそまさに霞が関的サル知恵、牽強付会の典型である。(続く)

投稿者: 田中良紹 日時: 2008年02月03日
posted by 原始人 at 15:43| Comment(0) | TrackBack(0) | Report | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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